488. 単純な寿命問題
「君達の寿命って平均150年じゃない? 解析終わるまでに死んじゃうよね」
わかると頷くルキフェルの言葉に、アベルが首をかしげた。
「150年?」
人族の寿命の平均を口にしたルキフェルだが、何を驚かれたのか理解できない。きょとんとしながら、ベールが差し出したお菓子を摘まんだ。視線を感じて振り向くと、羨ましそうなリリスと目が合う。唇に指を当てて「食べたい」と全力で示す幼女に、くすくす笑いながらテーブルの上の皿を指先でつついた。
焼き菓子の下に小さな魔法陣を作り出し、わずかな魔力で発動させる。アスタロトに隠れて行ったお菓子の転送に、ルシファーが頬を緩めた。保管していた焼き菓子を食べ終えたリリスが、ずっとベールの手元のお菓子を狙っていたのだ。
こっそり魔法で浮遊させて渡そうと画策していたが、ルキフェルが送ってくれたので助かった。手元で受け取り、袖に隠してリリスに渡す。お茶菓抜きを言い渡した鬼に見つからぬうちに……。
「陛下、バレていますよ」
ため息交じりに指摘され、びくりと肩を揺らす。同様に身体を揺らしたリリスが慌ててお菓子を頬張った。リスのようにぱんぱんになった頬が可愛いが、少々可哀想ではある。ゆっくり食べさせてあげたかった。
もぐもぐ口を動かすリリスの黒髪を撫でて「ごめんね」と謝っておく。
「リリス姫、お行儀が悪いです。まったく……会議が終わるまでの我慢でしょうに」
外へ出れば食べられるのだから、わずかな時間我慢しなさいとアスタロトが呆れ顔で呟く。両手で口元を隠しながら、食べ続けるリリスは返事が出来ない。ルシファーが肘掛けに寄り掛かって姿勢を崩しながら、アスタロトに言い返した。
「お前の言う我慢は、リリスには無理だ。幼子の目の前に菓子を並べて食べるな、とは可哀そうだと思わないのか?」
「思いませんが……姫が我慢できないのは理解しました。次からは考慮しましょう」
最大限の譲歩を見せたアスタロトの影で、ルシファーがガッツポーズをする。ちらっと見えてしまったベールが頭を抱えた。これが魔族の最高幹部会議とは……。威厳や重みがまったく感じられない。
「寿命の話でしたか?」
軌道修正を図ろうとベールがアベルに話しかけた。頬を膨らませたお姫様の顔に笑いを堪えていたアベルが、なんとか表情を取り繕う。
「え、はい。僕達の世界だと100歳未満が平均です」
「女性が90歳ほど、男性が80歳前後だったか」
イザヤが大まかな平均寿命を示せば、ルキフェルが納得した様子で頷いた。手元のお菓子を半分ほどリリスの前に転送し、魔法陣を消す。
「それは魔力量のせいだね。人族でも魔力ゼロに近い人は80年くらいだから。魔力量の多い勇者や魔術師は200年は生きるんだ。それで平均が150年なんだけど」
そこでチョコがついたお菓子を口に放り込む。ルキフェルの説明の続きを、ベールが担当した。
「3人とも後200年は生きるでしょう。魔力量が一番多い勇者でも250年は厳しいですが、人族の平均よりは長寿です」
異世界人であっても、体の色で魔力量が決まる法則は絶対だ。黄色人種の肌は、人族の中ではかなり白い分類に入る。しかし魔族の中では平均以下だった。
「……200年か。生活基盤を考える必要があるな」
イザヤが真剣に悩み始めた。帰れないならそれでいい。妹を危険に晒す気はないし、前の世界に未練もなかった。しかし、この世界で人族は脆弱な種族に分類される。出来る仕事は限られるだろう。贅沢は望まないが、最低限の生活は送れるよう仕事が必要だった。
「読み書きが出来れば、ある程度の仕事を任せられます」
事務職で引き取りましょうとアスタロトが提案した瞬間、ベルゼビュートが異議を差し挟んだ。
「ちょっと待ってよ。なぜ彼らを処刑しないの? 陛下に矢を放ち、剣を向け、血を流させたのに……おかしいわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます