963. ゴミを捨てられると迷惑

 物理、魔法、どちらの結界が効果を発しているのか。パンと音がする攻撃を、ルキフェルの結界は難なく防いだ。ならば深く考える必要はない。


「両方張ればいいだけ」


 オレリアと巫女が結界に入ったのを確認し、戦うというボティスに結界を重ねがけした。変な音のするあの武器は筒状だ。吹き矢のように物を飛ばす可能性があった。


「なんだ、こいつ」


「それは僕のセリフでしょ」


 外見が幼く見えるのを承知で嘲り、ルキフェルは腕を竜化させた。両腕で男の腕を掴んで折る。手から落ちる武器を収納へ回収した。念のために男を逆さにして振れば、小さな破片がバラバラ落ちる。それも回収して、生きたままの男を森へ投げ飛ばした。


 落下先の心配は僕の仕事じゃない。ルキフェルの冷めた態度に、油断した男を1人排除し、残った3人を順番に眺める。


 茶色い髪の女、黒い肌の男、金髪? 最後のだけ楽しませてくれるかな? 魔力量を色で測ったが、残念ながらそこまでの魔力を感じない。今ままでの人族と大差なかった。首をかしげながら近づくと、パンと音をさせて攻撃していくる。


「煩いよ、その音……耳障り」


 苛々する。吐き捨てて地面を蹴った。強化しなくても竜の持つ身体能力は高い。一気に距離を詰めて、金髪の男から狙った。頭を沼に叩きつけ、顔をしっかり沈める。息が出来ずにもがく男の手を折り、足も折った。


 沼に住む毒ガエルは血の臭いが好きじゃない。彼らに配慮して、出来るだけ血を流さないよう殺す。泥を飲んだのか、動かなくなった男を沼の外へ放り投げた。金髪のくせに、魔法陣どころか魔法すら使わないの?


 迎撃用の魔法陣を用意したのに。ガッカリしながら、茶髪の女を掴んで放り投げた。落下する森は魔獣が活気付いている。すぐに片付けてくれるだろう。最後に残った黒い肌の男が、体術の構えをとって襲い掛かる。鋭いパンチは空を切り、すべて避けたルキフェルが間近でにっこり笑った。


「ご苦労さん」


 思ったよりやるじゃん。そんな響きを込めて労い、元軍人の男は泥に沈んだ。倒れた男を毒ガエルが引き摺り込む。彼らの食事にはならないが、仲間を殺された恨みを晴らすらしい。ボティスの通訳で事情を悟ったルキフェルが、しっかり重石をつけて沈めた。


 ぐるりと見回す範囲に人族の姿はない。結界の中に避難したリザードマンは、ボティスと肩を叩いて互いの無事を喜んだ。


「これ、もらってくよ」


 魔法で浮かせた鉄の塊を森のそばに置くと、ドライアドが枝を伸ばす。中の死体をすべて引っ張り出し、森の木々の根元に埋め始めた。


「肥料になるなら、人族も無駄じゃないのかな」


 笑いながら鉄の塊を回収する。その時の感触で、生き物が紛れていたことに気づく。しかし収納空間に入った以上、もう死体だった。


「すみません、見落としがありました?」


 ドライアドの申し訳なさそうな様子に、ルキフェルは明るく笑って手を振った。


「平気、平気」


 そろそろ城に帰るべきかな? でも帰ると出られなくなりそうだし。ルシファーの性格をよく知るからこそ、帰ったら交代しろと言われるのも理解している。ルシファーを出しちゃうと、ベールに叱られそう。


 うーんと考え込んだあと、ルキフェルはこの場をオレリアとボティスに任せ、次の現場を探しに飛び立った。





「もう! 蚊みたいな音させないで頂戴!!」


 苛立ったベルゼビュートが剣を一振りする。見つけた人族が構える黒い筒は火薬と鉄の臭いがした。動物を撃つ彼らを排除すべく、飛んでくる何かを切り捨てていく。結界も張っているが、叩き落としたほうが早い。距離を詰めて飛びかかり、手足を切り落として森に放置した。


 涎を垂らす魔獣に片付けを依頼し、ベルゼビュートは落ちていた鉄らしき小さな何かを拾った。


「ゴミ捨てられると迷惑だわ」


 まとめて魔王城の城門前に転送し、巡回を続けるために森を駆けた。

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