1163. 今度こそ害虫駆除
転送された許可証の複写を確認し、ベルゼビュートが高らかに宣言した。
「人族殲滅の許可がでたわ! あたくしについてきなさい!」
元気一杯の声に、フェンリルのセーレが遠吠えを発した。あっという間に集合する同族を確認し、魔狼達は統率された動きで整列した。そこへ合流したのはエルフだ。他の地域から集まる魔王軍の有志や、ドラゴンなどを待っての行動となる。抜け駆けは一番嫌われるのだ。
「ルキフェルが合流する? ああ、そういえば記憶を少し飛ばしたとか言ってたわね」
可哀想に。せっかく念願の人族総攻撃の記憶が飛んじゃうなんて。あたくしなら悔しくて血の涙が出そうよ。瑠璃竜王に盛大な同情をするベルゼビュートは、奇妙な気配に気づいた。魔力が薄い……魔物かしら? 集まった者の指揮をセーレに任せ、移動した。
少し先の、この辺り……。がさりと茂みをかき分けた先に、子どもがいる。角なし、翼なし、毛皮や鱗もないけど、これって人族かしら。茶色い瞳とじっくり見つめ合ったあと、子どもが悲鳴を上げて逃げた。その後ろを追いながら、ベルゼビュートは溜め息をつく。
個体で子どもを発見したら殺しづらいじゃない。魔狼や魔熊のような、肉食系の魔獣を連れてくればよかったわ。子どもだけで森の中にいるのはおかしいが、周囲に他の人族の気配はなかった。追いかける先に、こちらへ向かうリザードマンの気配を感じる。
「……まずいわ」
リザードマンは戦士を自認する。卑怯な真似や弱者への攻撃はご法度だった。彼らに見つかる前に殺さないと、逃す羽目になる。またルシファーに押し付ける気がないので、さっさと処分するため剣を振り被った。
「待ったぁ!」
頭上に大きな魔力を感じ、ベルゼビュートが苦笑いする。咄嗟に足と攻撃を止めた彼女の前に舞い降りたのは、ドラゴン姿のルキフェルだった。青い鱗を輝かせる彼は、元気一杯に足を踏み出す。ぷちっと気配がひとつ消えた。
「あ、踏んだの?」
「だって逃げちゃうじゃん」
容赦もへったくれもないわね。肩を竦めるベルゼビュートに合わせ、するりと人型に戻ったルキフェルは、淡い緑のシャツの襟を正す。
「もう少ししたらベールが来る。待ってて、だって」
伝言を口にしたルキフェルは、先ほど踏んだ子どものことを忘れたように、セーレがいる方角へ駆け出した。悪びれるとか反省するとか、彼には遠い世界の出来事のようだ。ベルゼビュートもふわりと軽い動きで駆け出した。
リザードマンが動いたなら、周辺の警備が手薄かもしれないわね。あれこれと考えながらも、魔族を襲うのは人族だけだ。人族の集落をこちら側から攻撃するのであれば、逃がさなければ問題なかった。
魔力が満ちている今、魔の森の人族への攻撃性が増している。蔓や人を喰らう木が新たに増えたため、魔の森は以前より危険度が上がった。だが魔族へ積極的に攻撃する意思はないようで、たまに魔物や動物が捕まっている程度だ。この辺りに関しては、すでに魔王城へ報告書をあげたので周知されただろう。
「ねえ、ベールは魔王軍をどのくらい連れてくるの?」
追いついたルキフェルに話しかけると、彼は首をこてりと傾けた。
「たぶん、ほぼ全員?」
「いろいろ問題あるけど、前回は殲滅し損なったし……当然かもね」
魔王城や周辺の守りが薄くなるけれど、魔王とアスタロトが残っていれば負けるはずがない。反逆者の洗い出しも出来そうだし、この際だから確実に人族を滅ぼしたかった。
「残すとすぐに繁殖するんだもの」
溜め息をついたベルゼビュートの呟きに、ルキフェルが同意する。
「ほんと、繁殖力だけは旺盛だよね」
顔を見合わせた大公2人の上に影がかかる。大きな転移魔法陣に気づき、魔獣達も場所を開けた。ほぼ全軍、ルキフェルが口にした通り……かなりの数が集まる。久しぶりの大きな作戦に、魔族達の士気は上がり続けていた。
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