1241. 提案だらけで大変です

 作家の募集要項と援助の条件、選考会をお祭りとして開催すること。参加する種族の制限はなく、未経験者も簡単に応募できる形が採用された。さらに当日は各人が見本を持ち込み、それを基に様々な討論会や交流会も計画される。


 あっという間に大きなイベントとなった作家援助は、魔王妃と大公女が共同で開催する一大事業として魔族の中に広まった。開催時期は一ヵ月後、それまでに物語を準備して参加する。分野は絵本、小説、研究論文と幅広かった。


 援助を求める本気の参加者だけでなく、親子で絵本作りにチャレンジする者も現れる。お陰で参加希望者のエントリーが4桁に上っていた。


「これは……反響が大きいですね」


「恋愛小説家トリイの新刊に挟んだチラシの効果だな」


「僕は論文で参加するけどね」


 アスタロトの驚いた様子に、ルシファーが笑いながら補足する。トリイの名で恋愛小説を書くイザヤが協力を申し出たため、広告を最後のページに挟んでもらったのだ。回し読みする人々の間で、一気に噂が広まった。ルキフェルは研究論文を纏めながら、にこにこと機嫌がいい。


 論文の分野は書き手が少ないため、今まで交流のなかった研究者同士の繋がりが出来ると喜んでいた。養い子の青い髪を撫でながら、ベールは別の提案書を作成していく。お祭りに抱き合わせる形で、文官や武官の募集を行うのだ。


「……これでよし」


 さらにリリスを膝に乗せたルシファーが、器用に提案書を完成させた。こちらはバーベキュー大会をしたいという婚約者の願いを叶えるためだ。あちこちで乱発される提案書だが、基本的に民の娯楽に繋がるため反対はないだろう。どの種族もお祭り好きなのだ。


 魔王城前の芝生は、最近ではすっかりイベント会場と化していた。見通しを良くするため、樹木を植えていないのだが……イベントが始まるとテントが張られ、出店が現れ、あっという間に飲み会が始まる。


 娯楽だった勇者と魔王の戦いが無くなったため、城下町の人口増加も収まった。というのも、魔王が戦う姿を見たいと移住する民が多かったのだ。ここ数十年は人族からの偽勇者騒動が頻発した影響で、さらに移住者が増えていた。人族滅亡大作戦に伴い、ようやく落ち着いてきた形だ。


「お祭りの際に、いろんな種族が来れるように、街道を作ったらいいと思うの」


 リリスが両手を合わせてうっとり語る。外出しづらい虹蛇などの幻獣から、火口に住む鳳凰のような種族まで。素早く移動可能な街道が欲しい。お強請りのスケールが大きい黒髪のお姫様の頬に口付け、ルシファーが首をかしげた。


「街道なら整備済みだぞ」


「移動手段を増やして、そう日帰りできるようにしたらどうかしら」


 うーんと唸る。ルシファーや大公が出向けば、希望者を転移で送迎も可能だが。実情、準備に追われるので手が空かない。考えるルシファーに、リリスが思わぬ提案をした。


「あのね、魔の森はいま魔力が余ってるでしょう? それを利用して転移魔法陣を常設するの」


 常設……リリスの言葉に反応したのはルキフェルだった。論文を書く手を止め、食い入るようにこちらを見つめる。それから身を乗り出した。


「ちょっと話を聞かせて」


「転移魔法陣を各種族に渡して、発動する魔力を魔の森からもらうのよ」


 どうせ余ってる魔力だもの、使えばいいのよ。先日の魔の森に溢れた魔力の回収はルシファーが行ったが、まだ余っているらしい。落ち着いた状況だが、使っていい魔力があるなら使わない手はない。民の生活が格段と便利になるし、魔王城経由でどこへでも即日移動が可能になるのだ。


「提案書、書こう」


 ごくりと喉を鳴らしたルキフェルが、論文を収納空間へ放り込んで新しい紙を取り出した。がりがりと書き始めた彼に、横からリリスが口を挟む。どうやら提案書はまだまだ増えそうだった。

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