1240. 提案書は書き直し
「なるほど……発案の趣旨は理解しました」
参考資料として提示された恋愛小説を速読しながら、アスタロトが呟く。隣のベールも別の本を読みながら頷いた。ルキフェルは無言で読んでいる。現在、財務関連の計算に取り組むベルゼビュートは「気が散るから後にして」と発言し、執務室から出て来なかった。
大公3人の承認が取れれば、ベルゼビュートの署名は後回しで構わない。リリスに率いられた大公女4人はドキドキしながら、答えを待った。新しい試みなので、まずは予算をあまり使わない小型のプランでスタートする。その後、成果を見ながら徐々に予算を獲得する案だった。
「この辺はルシファーの案なのよ」
内緒だと言われたのに、あっさりバラすリリス。苦笑いするルーサルカと青ざめるルーシアの横で、シトリーが額を押さえた。翡翠竜が「あちゃー」と呟いてバッグに顔を埋め、レライエは緊張した面持ちで大公達の顔色を窺う。緊迫した場面で、ベールが口を開いた。
「この案を修正する気はありますか?」
言外にこのままでは通せないと言われ、大公女達は肩を落とした。かなりよく書けたと思ったのに。がっかりしながらも、本分は見失わない。大切なのは完璧な書類を作ることではなく、この案を軌道に乗せることだった。
「修正箇所をご指示ください」
「折角だ。問題だと思う場所を自分達で探してみろ」
黙って見守っていたルシファーが口を挟んだ。あっちか、こっちか。迷いながら彼女らは話を纏めていく。こういった経験が積み重なれば、いずれ大公の代理権を預かることもできるようになる。育てるつもりで、まずは簡単なところから提案させた。
「私は、この予算額じゃないかと思うの」
リリスが指差した。話し合いの当初から、リリスは額が小さすぎると主張している。多数決で一度は折れたが、問題点として再び提起した。ルーサルカは考え込む。
「予算額は足りていると思います。最初から大掛かりに募集しても、動かすノウハウがありませんから」
少人数で始めるべきだ。その主張にシトリーとレライエが同意した。だがルーシアが迷いながら呟く。
「私は倍くらいまで規模を大きくしてもいいと考えます。理由は小さすぎる試みでは、人々の意識に残らないからですわ。もっと大きな……例えば選考会をお祭りにして盛り上げるとか。そういう予算も組んではどうでしょう」
前向きな意見が出てきたため、大公女達は議論に熱中する。その間に、選考対象として渡された小説を読み終えたアスタロトが、愛娘にヒントを与えた。
「予算は余っていると仮定し、どうやったら新しい文化が根付くかを重視してください」
「……アスタロト、それは答えだぞ」
むっとしたルシファーが睨みつける。大公女が考えて到達すべき結論を、大人が口にしたら意味がない。いくら義娘が可愛くとも、やりすぎだ。指摘したルシファーへ、アスタロトは素直に謝罪した。自覚はあったらしい。
「アシュタが言うんだもの、予算はふんだんに使いましょうよ」
ふんだんに余っているとは言っていませんよ。そんな文句をスルーしたリリスは、お祭りの案を盛り込もうと必死だ。ルーシアの加勢に、迷いながら翡翠竜が参加した。ここで3対3になるが、読み終えたルキフェルが予算増額に賛同したため、一気に情勢が傾いた。
「よし。纏め直して再提出だ」
「「はい」」
ルシファーの号令で、再び書類作成に戻った少女達を見つめ、リリスがこてりと首を傾げた。
「ルシファー、私も書くわ」
「……ああ、うん。その……書くのはルーシアに任せよう」
リリスが書くと、文字がベルゼビュート級に酷い。読めなくはないが、解読作業が必要だった。今後のために、署名くらいは手直しするか。ルシファーは勉強の思わぬ落とし穴に、溜め息を吐いた。
誰にでも欠点はあるものだ。仕方ない。同様に苦笑する大公を見回し、ルシファーは肩を竦めて話を打ち切った。
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