221. 大騒ぎする小悪魔天使がいない静かな夜です

 お泊り会は順調に3日間を消化した。留守にした間に溜めた書類を片付けるルシファーも、子供達の付き添いで来た家族と面会の時間を設けたりと、忙しく3日間を駆け抜ける。ほっとする間もなく、翌朝には新しい子供達と付き添いが来るのだが……。


 合間の今夜はゆっくり過ごせる。付き添いの親や兄弟がいても、子供達は夜も遊びたがって大騒ぎが続いていた。食事も一緒にするため、ルシファー含め付き添いも気の休まる時間は、侍女が面倒を見てくれる昼間だけだ。


 やっと訪れた静かな夜、ソファに座るルシファーは紅茶片手に自室でくつろいでいた。


「どうだった? リリスが特に仲良くなった子はいるか」


「私が見る限り、ほぼ全員と同じように仲良くなっていましたので区別がつきません」


 申し訳なさそうにアデーレが報告する。恐縮する彼女は悪くない。こうなる予想は、すでに初日にアスタロトが口にしていたのだから。


「いや、気にしなくていい。あと4回もあるんだから……」


 正直、今から気にしていたら身が持たない。ルシファーは左腕にしがみ付いて、すやすや眠るリリスに目を向けた。遊び疲れたらしく、候補の少女達とお別れした途端に眠ってしまった。それ以降、ずっと腕に抱いて離さないルシファーが、ふと呟く。


「こうしてる間に、リリスはオレから離れていくのかな」


「親バカ発言全開のところ、大変言いにくいのですが……結婚相手ですよ?」


 離れるどころか、彼女が15~6歳になったら婚約して、18歳前後で結婚すると思われる。最短記録ならもう少し縮められるが、あまり幼いうちに結婚させる気はないアスタロトの指摘に、ルシファーは苦笑いした。


「他に好きな男が出来るかも知れん」


「可能性はありますね」


 頷いたアスタロトが意地悪げに笑う。自分で言った言葉に、自分で傷つくルシファーが項垂れた。しょんぼりしたルシファーの純白の頭の上から、淡々と見解を述べる。


「ですが、リリス嬢が他の男に目移りした瞬間、その男は消滅するので恋愛感情には至らないかと思われます」


 間違いなく、リリスが目移りした相手は抹殺される。ルシファーが手を下す可能性はもちろん、魔王の安定した統治に必要ならアスタロトやベールが陰で手を下すだろう。そこまで言及せずに表面上は穏やかに言い聞かせる部下に、ルシファーは表情を和らげた。


「そうだな。恋愛になる前にすれば問題ない」


 始末と言い切りましたね、この人。無言になったアスタロトをよそに、アデーレはにっこり笑う大物ぶりだった。


「陛下、リリス様をお風呂に入れて差し上げる時間ですわ。お食事は軽めにご用意しますね」


「コカトリスの唐揚げが食べたいらしい、柚子風味でさっぱり仕上げてくれ」


 エルフが献上した苗木に柚子があり、その実を使った醤油味のドレッシングを掛けた野菜と食べる。リリスお気に入りの食べ方を提案すると、心得た侍女は「承知いたしました」と一礼した。


 抱っこした愛娘を愛おしそうに見つめながら、頬にキスをひとつ落とす。むずがるリリスが小さな口で欠伸をして、少しだけ目を開けた。


「お風呂入ろう、リリス」


「……うん」


 半分寝ているようだが、ルシファーが入浴させるなら溺れる心配もないだろう。アデーレはくるりと踵を返して食事のリクエストを伝えに部屋を出て行く。


「アスタロト」


「なんですか?」


「……風呂から出てリリスの裸を見ると困るから、執務室で待機な」


 どれだけ心が狭いんですか。というか、幼女の裸なんて見る気もありません。大きくため息をついたアスタロトが「はい」と返答したのを確認し、ご機嫌でルシファーは風呂場へ姿を消した。

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