04. 拾いものは得意でした★

「ルシファー様、何をして……?」


 後から追いかけてきた側近アスタロトの声が途切れる。首を傾げた青年が振り返ると、驚きすぎて目を見開いたまま固まる20歳前後の青年がいた。魔族特有の抜けるように白い肌を波打つ金色の髪が縁取っている。真紅の瞳は零れ落ちそうだ。


 先ほどまで侵入者相手に振るった剣は、右手に握られたままだった。


「どうした、アスタロト」


 主の右手に抱かれた布包みが動いている。声は聞こえているが、凝視したまま無言で近づいた。手を伸ばすと避けられる。


「……なぜ避けるのですか」


「だって、何するかわからねえじゃん。だいたい手が汚い」


 砕けすぎた口調に額を押さえ、アスタロトは聞こえよがしに大きな溜め息を吐いた。血塗れの剣と手の血を消してから口を開く。


「ルシファー様、何度も申し上げておりますが……あなた様は『』なのです。そのように品のない言葉遣いは、下の者に示しがつきません」


「公式行事のときはちゃんと話すだろ。私的なときくらい許せ。お前の言う品のない言葉とやらは、オレの大切な民が使う言葉だ。失礼だぞ」


「……本当に、口は達者ですね」


 ああ言えばこう言う。まさに見本のような魔王の切り返しに、アスタロトは眉を顰めた。


 魔王に相応しい振る舞いを求めても、普段はまったく聞いてくれない。公的な場ではそれなりに振舞ってくれるため大目に見てきたが、他の大公から苦情が出ているのだ。そして苦情を受け付けて処理し、頭を下げるのは側近であるアスタロトの役目だった。


 あまり自由にさせると後始末が大変だ。


、何を拾ったのです? まさか、あなたの御子おこではないですよね」


「今回は、と強調するほど拾ってないぞ。それに単独ひとりで子供は作れない」


「そうですか? あなた様なら作れても驚かないですが……大きな拾いもので2万年前に神龍シェンロンの卵、わずか1000年後に灰色魔狼フェンリルの子、上級妖精族ハイエルフの少女は1万5000年前でしたか。あとは……」


 数千年に一度拾う程度、そこまで怒らなくてもいいじゃないか。アスタロトは記憶力がいいので、忘れていた拾い物まで挙げ連ねられそうだ。


 まだ続けそうなアスタロトを左手で遮る。その手で優しく布をどけて、右腕に抱く赤子を見せた。ルシファーに抱かれて安心したのか、すやすやと眠っている。


【挿絵】 https://26457.mitemin.net/i584797/


「わかった。確かに拾うけど、今回は城門に捨てられたんだからオレが育ててもいいだろ」


「城門に、人族の赤子ですか?」


 魔族領に出入りを規制する結界はない。そのため人族や妖精族、魔物も自由に往来していた。だが魔王城の城門は守衛がいるのだ。勝手に赤子を捨てていけば、さすがに気付かれるだろう。おくるみに包まれた赤子が這って来れるわけはなく、大人が抱いて近づけば守衛が見逃すはずはなかった。


「ふむ……守衛がサボった、とか」


「まあ、その辺はどうでもいいけど。とにかくオレの家の門前に捨てられたんだから、家主のオレが育てるさ。普段からお前が言う『責任感』ってやつだ」


「意味が違います」


 ぼやきながらも、アスタロトは強硬に反対しなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る