1287. 久しぶりの噴火でした

「温泉街の火口が噴火しました」


「は?」


 尋ね返したルシファーだが、すぐに立ち直った。というのも、噴火はこれで200回以上だ。正式な噴火回数は魔王史を調べればわかる。数百年単位で噴火を繰り返し、その恩恵が温泉であり高温の亜熱帯だった。


「まだ周期じゃないと思ったが」


 数百年と大雑把に表現するルシファーだが、実際は450年から500年ほどの間隔で噴き出す。前回が280年前だから早すぎた。そのため、特に見回りも強化していない時期なのだ。


「被害は?」


「判明しておりません。ルキフェル大公閣下が飛び出して行かれましたわ」


 ということは、間違いなくベールも向かう。ルシファーが行く必要はなくなった。大公2人が揃えば、火口からの溶岩や噴石の被害は防げるだろう。ベールは鳳凰の力も持つため、噴火の対策に適任だった。


「任せるとしよう」


「いいの? 温泉屋敷が燃えちゃわない?」


「燃えたら立て直すさ。あの屋敷は公共事業の一環だからな。ドワーフ以外の種族が建てることになっている」


 だから装飾品が少ないシンプルな建物なのだ。アンナは和風の高級旅館と表現したが、実際のところドワーフが建てたら神殿風の温泉になっただろう。そう説明すると、リリスはそれもいいと呟く。自然災害だが、第一報に被災者が含まれなかった時点で、大きな問題はないと思われた。


「温泉街の復旧費用に、先日の宝石を使ったらどう?」


 結婚式間近のベルゼビュートが、エリゴスと腕を組んで通りかかる。現在は休暇中のはずだが、誰かが呼びだしたのか? 首を傾げるルシファーへ、ベルゼビュートが書類をひらりと取りだして見せた。


「これに陛下の署名をいただきたいの」


「結婚承認書? こんな書類あったか?」


「アスタロトに渡されたのよ」


 これを提出しろと言われたらしい。そういえば戸籍制度を作ると聞いた。その一環だろう。署名用のインクは執務室なので、ここでアデーレと別れて階段を上る。執務室に入ると、すでにアスタロトが数人の文官を連れて報告書を積み上げていた。


「もう報告書か」


 早いな。呆れながら席について、膝の上にリリスを乗せる。ペンを手に取り、まずはベルゼビュートの結婚承認書に署名した。リリスが印章をぺたんと押す。慣れた分業を終えた書類を、彼女の手に戻した。その場でアスタロトに提出したベルゼビュートは機嫌がいい。


 アスタロトはさっと目を通して、後ろの部下に渡した。代わりに受け取った書類を崩れないよう積み上げる。この辺の技術は慣れだろう。大量の報告書は各所から上がった物らしく、文字がそれぞれに違っていた。


 ひな形を作ったアンナ達日本人の功績により、書類はかなり枚数が減ったはずだが。見事な高さに積み上げられた枚数は、うんざりする量だった。


「はい、噴火はすでに対応しました。逃げ遅れた獣人が1人火傷を負いましたが治療済み、鎮火を試みて失敗した鳳凰が溶岩に飲まれ生還しました。問題は、ルキフェルが周辺の地形を破壊したくらいですね。温泉地の屋敷は全焼です」


「再建の計画書類はこちらになります」


 アスタロトの端的なまとめを聞きながら、彼の部下が差し出した書類を引き出しに入れる。新しい屋敷の計画は後回しだ。ひとまず逃げた住民の生活と現場の復旧だろう。


「ロキちゃんは?」


「罰を受けることになる。復元魔法陣が土地や建物に適用できるか、試すように通達。無理なら改良しろ……これじゃ罰じゃないか」


 苦笑いするルシファーにアスタロトが追加した。


「吹き飛ばした山は溶岩で作り直させるとして、街の復元も任せてみましょう」


 研究職だが、実際に作り上げる現場は苦手なルキフェルを配置する。ベールには別の仕事を言いつけて、引き離せば罰になるのでは? アスタロトの案に、ルシファーは少し考えて許可を出した。


「それでいこう。任せる」

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