440. ドラゴンは肉団子がお好き
※多少の残酷表現があります。
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滅びた王国の王弟が興したガブリエラ国は、前王の直系を戴くミヒャール国と仲が悪い。魔族が攻めてきたとしても、互いに手を取り合う気はなかった。間違いで攻め込まれたミヒャール国は外壁の再建や街の復興に忙しく、ガブリエラ国の状況を知る手段もない。
首都を囲む外壁の内側、中央付近の丘に建てられた城。公爵家だった王弟の居城だった。数十年の築年数しかない建物は、駆け込んだドワーフによって崩されていく。大槌を振るって壁を破る彼らの手際の良さは、建築関係の知識に基づいていた。
どの壁を壊せば上の階が崩れるか、設計の知識を逆に活用したドワーフを止められる者はいない。騎士や衛兵はエルフや魔獣に狩られた。城を守る者はもういない。
城門にべっとりと赤が塗られていた。鉄錆びた臭いが漂う王城前の広場で、銀髪の美丈夫と手を繋いだ愛らしい少年は悩む。
「うーん、何か違う」
ルキフェルは開発した新しい魔法陣を試した結果に首をひねった。
これでは失敗作として封印するしかない。
「ルキフェル、雷と火を同じ魔法陣に組み込まない方がいいのではありませんか?」
「勝手に着火しちゃうってこと? あり得るかも」
調整して描き直し、新しい獲物を選ぶ。爆発して失敗したのは貴族の男だった。肩書や名前に興味はないので、ルキフェルもベールも確認していない。協力してくれたエドモンドを含むドラゴン達には、2人の魔術師を分け与えた。大喜びで
選んだ豚男を魔法陣で壁に拘束する。その時点で改良した魔法陣を重ねようとして気づいた。
「ベール、これだ」
短い言葉だが、いつも一緒にいるベールには通じた。拘束する魔法陣に、再び拘束が含まれた魔法陣を重ねたことが爆発の原因だ。まったく同じ模様なら問題ないが、他の魔術と融合させるための魔法文字が反発したらしい。
壁に拘束した貴族が泣き叫ぶのを放置して、手元に両方の魔法陣を描いて比べる。夢中になっている彼らの背後で、数人の貴族が逃げ出そうと動いた。
「そこの奴、動いたら……」
振り返りもしないルキフェルが言葉を切る。言われなかった先が恐くて、その場で失禁してへたりこんだ。眉をひそめたベールが「情けない」と嘆く。
魔族の基準では、貴族は実力者ばかりだ。人族のように世襲で継ぐものと限らないため、民を守れない弱い貴族は存在しなかった。故に、弱者が頂点に立つ構図に呆れるしかない。国民を置いて逃げる輩が貴族を名乗り、富や権力を振りかざすなど愚か過ぎた。
「実験したい魔法陣はこれで終わりだから」
にっこり笑うルキフェルが濁した後半を、それぞれに解釈した。もう実験しないから助かると受け取った人族と、終わったから残りで遊ぼうと誘われたベール、遊びに交ぜてもらおうと期待するドラゴン達。各人の思惑に、水色の髪の少年は残酷な本性を垣間見せる。
「それじゃ、試してみようか」
拘束用の魔法陣を一度解除して、崩れ落ちた男に新しい魔法陣を展開する。上手に磔ができたことで、ルキフェルが手を叩いて喜んだ。
「出来た!」
「おめでとうございます、ルキフェル」
良くできましたと髪を撫でたベールの隣で、繋いだ手を振り回して喜ぶルキフェルが魔法陣に魔力を注ぐ。「ばーん」と合図の声を上げた子供らしい仕草に、ベールは頬を緩める。しかし城壁の男は中に組み込まれた氷に貫かれ、雷に打たれ、最後は炎に巻かれて灰になった。
「ルキフェル様、片付きましたぞ」
エドモンドが得意そうに転がしたのは、突きまわした肉塊だった。竜族の習性なのか、捕らえた獲物を食べないときに丸めてボール状にする。よくこれを嫁になるドラゴンへプレゼントしたりするが、実は上司や主君への献上品にもなるのだ。
「エドモンド、作るのうまい」
「ありがとうございます!」
嬉しそうなエドモンドが「どうぞ」と差し出した肉団子は、綺麗に固められていた。砕きすぎるとボロボロになるし、荒いと綺麗に丸まらない。絶妙の真円具合は、元公爵家の
「ルシファーは欲しがらないだろうし、持ち帰っていいよ」
意外とリリスが興味持つかもしれないけど、あげるとアスタロトが怒りそうだし。少年の腰の高さまである肉団子は、ドラゴンの爪に摘ままれて運ばれていった。
「さて、あとは君らの処分だよね?」
処罰ではなく、処分。選んだ単語に本音が透けている。片づける対象として、太った豚に見える人族が8人ほど残っていた。引き裂いても、潰しても、落としてもいい。久しぶりに手で引き裂いてみようか。残酷な方法を思い浮かべながら、ルキフェルは乾いた唇をぺろりと舐めた。
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