1097. 謝るがオレが正しい
触れたルシファーの手の中で、杖は爆発しなかった。発動を促すために振ると、魔石が作動して水が流れ始める。数回乱暴に振ってみたが、爆発はしなかった。作られる水の量が変わった程度の変化だ。
頷いたルシファーが杖を置き、普段から展開している結界を発動させた。その上で手を伸ばし杖に触れると、一瞬で爆発する。ついでに火薬を巻いて花火を演出したので、周囲の見物人は手を叩いて喜んだ。
青白い火花の中に赤い爆発が見えて、リリスも手を叩く。魔王であるルシファーのケガは心配しなかった。結界を張ったのが、薄く光って見えるのだ。魔力を見る能力は、潜在的な能力で魔力を必要としない。魔力が封じられたリリスでもしっかり見分けることが出来た。
「……結界に反応しているのですか」
「そういうことだ。リリスの時はオレの結界が、次の接触はアスタロトの結界が反応した。杖を扱う獣人の店主は結界を張っていない。違いはその程度しか見つからなかったからな」
だから結界を消して試した。言いたいことは理解できるが、容認できるかは別問題だった。むっとした顔のアスタロトに、ルシファーは肩を竦める。
「手が吹き飛ぶほどではないし、傷を負っても治る。大した問題にならないさ」
「あなたに何かあれば……っ」
「その話は後だ。移動するぞ」
ひそひそと交わした会話を打ち切り、ルシファーは集まった観光客や住民に手を振って、リリスと腕を組んだ。にこやかな笑顔を浮かべるルシファーに釣られて、リリスが嬉しそうな顔で抱き着いた。
「今の花火、綺麗だったわ。特に、ルシファーの結界に触れた瞬間の緑の光が、すごく鮮やかだったの」
「緑、ですか」
後ろのイポスは不思議そうに呟く。動体視力が優れた彼女の目であっても、その光は見えなかった。つまり魔力同士が反発した瞬間の閃光なのだろう。ルーサルカ達大公女も、口々に花火を褒め称える。顔を顰めているわけにいかず、アスタロトも微笑みを湛えて後ろに続いた。
少し歩いた後、犬獣人の店主と狐の兄妹を連れてルシファーは全員を屋敷まで飛ばした。ここなら誰かに話を聞かれる心配は少ない。きょとんとしている獣人親子を中に招き入れ、広めの客間を選んで机を囲んだ。
巨人族の織物である厚い絨毯が敷かれた部屋は、椅子がない。壁際に凭れるためのクッションが大量に積まれていた。それぞれにクッションを手に、壁際に腰掛ける。一番奥に陣取ったルシファーが、リリスを横抱きにして膝に乗せた。胡座をかいたルシファーの上で、リリスは器用にバランスを取る。慣れた様子でイポスがクッションを押し込んだ。
大公女達が集まって左側の壁に寄り掛かり、イポスはリリスの斜め後ろに控える。アスタロトがルシファーに近い右側に座ると、必然的に入り口側に獣人達が集まる形となった。
「ルシファー様」
「わかってる。説明せずに試したのは悪かった。だが、あの場を収める方法が他にあったか?」
そう問われると、アスタロトも文句を飲み込むしかなかった。
あの場で杖が危険だと認識されれば、妖狐族の兄が作る便利な道具は売れなくなる。魔法が使えない一部の種族や魔力量の少ない獣人にとって、あの杖はまさに「魔法の杖」だった。簡単に火が熾せ、水を作れる。風を吹かせて、大地を耕す利便性は手放せない。
杖が危険なのではなく、結界を張れるほどの魔力量を誇る種族が触れるから爆発する。それがはっきりしていれば、売る時に注意すればいい。今後のことを考えると最良の対応だった。
「あの……ありがとうございました。お陰で助かりました」
妖狐は少年の姿を取ると、丁寧に頭を下げた。首を捻りながら、同じように頭を下げる父親は事情がよく理解できていないらしい。
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