413. 会議が長引くのは誰のせい?
大広間に集まった貴族を見回し、ルシファーは内心で首をかしげた。なぜ全員集合になっているのか。そこまでの招集は滅多にない。しかし表面上は何もなかったように、玉座の上に座った。
「パパ、たっくさんいるね」
「そうだな」
小声でひそひそ話しかけるリリスに微笑み、膝から落ちないように座らせる。正面を向くよう座らせたリリスはごそごそ動いた後、横抱き状態に座り直した。幼女の白いおみ足がちら見えするので、さりげなくローブの袖で覆って隠しておく。
「横抱きの方がいい?」
「うん、こうしないとパパのお顔が見えないの」
デレっと崩れかけた顔を必死で引き締めながら「嬉しいことを言う」と黒髪にキスを落とす。一応人前なので自重した魔王だが、側近から見れば頭を抱える事態だ。とりあえずルシファーの意識を、幼女から議題へ向ける必要があった。
「陛下、よろしいでしょうか」
氷点下を大幅に下回る極寒の声に、ルシファーは「うむ」と取り繕って頷いた。アスタロトのいる右側が寒い。たぶん気のせいじゃなくて、本当に冷たいのだろう。突き刺さる氷のような視線が痛いので、ひとつ深呼吸して声をかけた。
「ご苦労、楽にせよ」
この一言がないと会議が始められない。頭を下げていた貴族達が顔を上げ、嬉しそうに表情を和らげた。今日も魔王様はご機嫌も外見も麗しい。お膝の上の姫君もご機嫌で、しかもラブラブだ。このお姿を見るために全力疾走で会議に駆け付けた種族もいるほどだった。
尻尾のある種族がぶんぶん振ると、後ろから苦情が出る。ぺちんと尻尾を叩かれてむっとするものの、彼らはすぐにまた前を向いた。
魔王陛下の前でのケンカは厳禁なのだ。
新しい貴族が増えると、彼らに一番最初に叩きこまれる法でもある。
一度膝をついて控えたアスタロトだが、始まりの声掛かりを受けて立ち上がった。
「今日の議題は人族の新たな勇者について。魔の森の拡大に関する報告、聖女候補と思われる少女の存在、あとは細々とした議決のみです」
簡単そうに言うが、進行役であるアスタロトの手元にある資料が分厚い。片手で持っているが、魔王史を記した文献並みに厚いファイルに、貴族達は経験から時間を推し量った。おそらく……半日、もしかしたら明日までかかるかも知れない。
「まず勇者関連の報告を行い、いくつかの重要法案の裁決を取ります。昼休憩は70分。魔の森に関する報告を纏めた物を配りますから、これは持ち帰って読んでおいてください」
持ち帰りの宿題があると聞き、一部の種族は青ざめている。基本的に識字率が高い魔族だが、視力が弱かったり文字を形として上手く認識できない種族も存在した。しかしそこは優秀な文官トップであるアスタロトが解決策を講じている。
「いつも通り、A分類種族の方々には明日別室でご説明します。午後から『異世界召喚』という魔術による違法行為について。採決は昼休憩の後すぐに行うものとします。質問は?」
ぐるりと見回すが、誰も挙手していない。満足そうに頷いたアスタロトが、視線を落とすとお人形を抱っこしたリリスと目があった。嬉しそうに手を振るリリスへ、資料の影でそっと手を振り返す。
「では報告を始めます。一部の貴族はすでに耳にしているでしょうが……また人族に勇者が出ました」
大きな溜め息をついたアスタロトが、再び口を開く。
「すでに魔王陛下により捕らえられましたが、その勇者は
「大変だ」
「陛下のご負担が増えるな」
報告内容に懸念を表明した者がざわつく。少しすると収まるので放置するアスタロトは、別の書類を確認している。階段下でベールとルキフェルが必要な報告関連の書類を睨んでいた。ベルゼビュートは爪の先が欠けたのを気にして眉をひそめる。
まとまりのない会議が紛糾する中、ルシファーは頬を緩めて左腕に寄り掛かるリリスを見つめる。与えらえたお人形の服を脱がせて着替えさせるリリスは、ズレた鼻歌で同じフレーズを繰り返しながら、機嫌よく人形を掲げて見せた。
「できた」
「すごいな、リリス。上手に出来てるぞ」
人形の服のズレたボタンを陰で直しながら、ルシファーは幼女の頬にキスを落とす。はしゃいだ声を上げるリリスを、微笑ましく見守る貴族達は自然と口を噤み静けさが戻った。
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