【お正月特番w】詰まった餅は最終兵器
「ま、魔王様。餅は喉に詰まると危険です! すぐに吸い出さないと」
「そうかっ!」
頷いたはいいが、吸い出す方法を考えて止まった。吸い出す……そんな魔法陣あったか? 簡単なのは口で吸い出すことだが、他人の目があるこの場所で、リリスの口を吸うのか! 公共の場だぞ。いや、命の方が大事だが……え、どうしよう。
迷った間に、リリスの顔色が少し青くなる。焦ったアンナが駆け寄り、リリスの口を開かせた。白い餅の端に指を入れて掻き出そうとする。苦しいリリスが嫌がって首を振った。
「ルシファー様! しっかりなさってください」
アスタロトに背を叩かれ、アンナの手を外した。口の端に出ている餅をまずは除去する。これに関しては魔法陣が使えた。ついでに全部出てくれたら……そんな淡い期待を、餅は遠慮無く伸びて遮った。びみょーんと長く伸びた餅が切れる。残りは喉の奥で指が届かない場所の餅だった。
「よし、これは救助活動の一環だ。救助、救助だ」
自分に言い聞かせたルシファーがリリスの口を塞いだ。触れた幼子の唇は柔らかく、鼻で息を吐いて一気に吸い込む。今度はリリスも痛くないのか嫌がらない。もしかしたら意識が遠のいている可能性もあり、もう一度吸い上げた。
ぽんと口の中に飛び込んだ餅を、手の上に吐き出してみると思ったより大きかった。
「うわぁあああ! 取ったぁ」
「よかったな、無事で。新しいお餅はあげるから」
喉が詰まりかけた自覚のない幼女にとって、理解できたのは食べかけのお餅を取られた事実だけ。泣き出したリリスの頬に大粒の涙が流れる。それをあやしながら、リリスの濡れた頬を拭いた。
青ざめた顔色も、大泣きしている間に血色が良くなってきた。安堵の息をついたルシファー達の様子を、周囲の魔族は真っ赤な顔で見ている。まさか、魔王と魔王妃のキスシーンを目撃すると思わなかったのだ。ルシファーは絶世の美貌の持ち主だし、幼女リリスは可愛いと評判の子――2人の口付けを目の前で見たアンナは「尊い」と呟きながら兄イザヤに回収された。
「アスタロト、新しい餅をくれ」
「危険だとわかって食べさせるのですか」
呆れたと呟きながらも、アスタロトは言われた通り餅を選んでさらに乗せた。差し出された皿を受け取り、ルシファーはにっこり笑った。
「大丈夫だ。助け方はわかった」
そういう問題ではないと思うのですが……そんなアスタロトに、後ろからベールが肩を叩く。無言で首を横に振られ、諦めろと言外に告げられた。互いに視線を合わせ、苦笑してその場を離れた。
今度は一口サイズに千切り、周りにきなこをたくさんつけてリリスに渡す。甘い粉がたくさんついているため、焼き菓子を食べる時の様に齧って食べ始めた。しかしまだ鼻を啜っており、しゃくり上げる様にもぐもぐと噛み締める。涙で濡れた頬を拭い、飲み込んだのを確認して鼻も拭いた。
「パパも、食べる?」
「あーん」
口を開けて待つルシファーの口に、リリスは小さな餅を入れる。指についたきなこを舐められ、擽ったさに笑い出した。ようやく笑顔が戻ったリリスに頬擦りするルシファーは知らない。
後ろでも数人の魔族が喉に餅を詰まらせ、その都度、ルキフェルが新開発した魔法陣で救助していた事実を……そう、人前でキスをしなくてもルキフェルがいれば簡単に助けられたのだ。苦笑したベールは指摘せず、アスタロトも口を噤んだ。
知らぬは当人ばかりなり。
余談だが、餅つきは食べ方のマナーと救助用魔法陣セットで、一部の貴族に恒例行事として受け入れられた。街の住民達が器用に安全に餅つきを楽しむ様になったのは、アベルが提案した3年後である。
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