1327. 雑談は危険に満ちている
「ルシファーの転移は安全だよね。こないだ考え事しながら飛んだら、右腕が木に埋まっちゃってさ」
ルキフェルが軽い口調でとんでもない発言をする。ぶるりと震えるヤンは尻尾をくるりと巻き込んだ。想像するだけで痛そうだが、対するルシファーも普通ではなかった。
「そうでもないぞ。こないだ海に行った時は高さの設定を間違えてな、リリス以外の全員が足首まで砂に埋もれた」
「ああ、なんか分かる。リリスはルシファーが抱っこしてたでしょ」
「その通りだ」
笑い話で済んでいるからいいが、実際海底で足を岩に食われた魔王もいるのだ。圧倒的な魔力と異常なまでの頑丈さがなければ、大事件だった。毎回たいしたケガもしないので、到着地点の確認も疎かにする。悪循環だった。
「いつもそれだとベールが怒るだろ」
「ルシファーがアスタロトに叱られる回数より少ないけどね」
到着した森の中で雑談を続けながら、彼らの手元は忙しく動いていた。基本となる魔法陣は完成している。
世界の裂け目はエネルギーの通り道だ。こちらから魔力を吸い出すか、向こうから何かを受け取るかの違いだけだった。先日異世界人を送り返して塞いだ穴は、こちらから吸い出すタイプだ。そのため反転させて、エネルギーの流れを遮断した。今回は送り込まれているので、エネルギーの種類を解析して塞ぐ際の動力として活用する。
「今回の方が楽か」
「そうでもない。調整が難しいからね」
間違うと向こうの世界が吹き飛ぶよ。まあ関係ないけど。恐ろしい発言をするルキフェルにとって、見も知らぬ世界の滅亡など興味の対象外だった。勝手にこちらに入り込もうとしたのだから、爆発しようと知ったことではない。
木の揺れる葉の間に開いた穴は、大きさにして人の頭程度だった。小さいが動物や魔物が飛び込まないとも言い切れない。得体の知れないエネルギーを垂れ流しにされ、汚染や魔の森の変質を引き起こされても困る。ルキフェルは調整して跳ね返すよう設定した魔法陣を確認し、大きく頷いた。
「これでよし、設置しちゃおうか」
「ご苦労さん、設置はオレがやろう」
最も強い結界の持ち主が名乗り出て、念の為にレラジェを下ろす。大人しくルキフェルと手を繋いだレラジェは、きょろきょろと周囲を見回した。
「ねえ、あっちにも穴がある」
「ん? あ、本当だ。っていうか、あの穴は調査から漏れたの?」
ルキフェルが眉を顰める。魔王軍の調査結果に出てこなかった穴は、こちらより大きかった。ヤンがすっぽり入る大きさで、高さも低い。よそ見して歩いていると、うっかり飲み込まれそうだった。
「無事稼働してる……ん? なんだ、あの穴は」
戻ってきたルシファーも首を傾げた。気配らしきものは感じないし、感知にも引っかからない。だが大きな穴だ。
「目視じゃないと見つからない穴もあるのか」
「調査後に出来たのかもね」
稼働した魔法陣を少し観察し、問題なく塞がるのを確かめる。小さな方の穴はこれで終わりだった。向こうから送り込まれたエネルギーを変換して利用するため、魔力を流す必要もない。ぷつんと最後まで塞がったのを確認し、ここに関しては終了だった。
見つけた以上、塞いで帰るか。そんな話をしながらレラジェと手を繋いで歩く。ルシファーとルキフェルの間で両手を繋ぐ子どもは嬉しそうだった。ついてくるヤンが鼻をひくつかせる。
「我が君、妙な匂いがしますぞ。甘い……花の蜜のような香りです」
「確かに樹液みたいだよね」
ルキフェルも気づいて匂いを確かめた。真似をするレラジェがずずっと鼻を啜る。ちょっと違うが、誰も指摘しなかった。
「この裂け目からか?」
蜜の香りは、繋がった先から漂ってくるようだった。
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