847. たかが挨拶、されど挨拶
日暮れまで続いた謁見が一段落し、まだ大半の民が残っていると聞いて、ルシファーが唸る。即位以来ここまで大掛かりなイベントはなかった。そのため、対策が後手に回っているのだ。
まず立ちっぱなしの公爵と少女達の足が浮腫んでしまい、1時間ごとに治癒をかけることに決まった。大公達も各々勝手に対策を行なっている。ベルゼビュートはわずかに浮き、アスタロトは負担を影に流して分散した。ルキフェルは足を竜化して強化する。見た目対策していないベールだが、鳳凰の自己治癒力を使って常に自らを癒し続けた。
ルシファーとリリスも、疲れを飛ばすために1時間ごとの治癒魔法でリフレッシュをはかる。
日本人であるアベル達3人も祝いに駆けつけ、日本の習慣だと言って土産を置いて行った。それを見た魔族が騒いでいたため、明日から大量の土産を受け取ることになるだろう。もしかしたら家族に頼んで土産を言付ける者も出そうだ。
鳳凰のピヨとアラエルは一緒に現れたが、ピヨが興奮して火を吹き、慌てた公爵が水をかけ、それをアラエルが乾かす騒動が起きる。いつものことだが、アラエルは必死に面倒を見るのに番の関心が、ヤンに向いているのはどこか切なかった。
イポスは婚約者と父の間に挟まれて挨拶を済ませた。本来婚約者がいるべき右側に父が立っていたのは、ルシファーも苦笑する。将軍職を預かる男は、存外心が狭かったらしい。娘が相手を見つけないと心配だが、婚約者が出来ると手放したくない父親の心境で邪魔したくなったのだろう。
ゲーテとアミーの人狼親子も顔を見せた。まだアミーの種族は確定していないが、妻だったグリフォンと違う魔狼の外見から「アミーを仮に人狼とみなす」旨の決議がなされていた。そのため人狼は復活(仮)という複雑な状況に置かれている。城の中に住んでいたので、比較的スムーズに列の前に入れた彼らは、丁寧に挨拶をしてくれた。
後ろに並んだ灰色魔狼のセーレと仲良くなったらしく、一緒に来た子狼や先代獣王のヤンと交流を深めたらしい。同じ狼同士気が合うようだった。種族復活が確定となれば安全確保のため、魔王軍の保護対象に位置付ける事ができる。近くセーレと共に森で暮らしたい、そう申し出があったとアスタロトが耳打ちした。
ラミアは城下町で保護されている、人族の被害者である女性達を引き取りたいと名乗り出た。自分達も人族には酷い目に遭わされた。周囲はリザードマンやフェンリルが住むため、比較的安全に過ごせること。何より女性ばかりの種族なので、男性への恐怖心を抱く女性達を受け入れやすい土壌があること。それらを必死に訴える。
祭りの後で当事者同士の話し合いの場を持つことに決まり、ラミアは用意されたテントで時間を過ごす予定だ。その間も無駄にする気はないようで、明日から女性達と面会する意欲を見せた。
変化していく魔族の意識は、以前より前向きになっている。新しい事への恐怖や、変わる事への怯えが消え、代わりに他者に寛容になった。嬉しい変化を見つけたとルシファーが頬を緩め、リリスは各種族へ分け隔てなく声をかける。
気づけば休憩後の午後の挨拶も終わり、日差しがオレンジ色に空を染め始めた。まだ挨拶待ちの列は尽きないが、文官達の仕事で並んだ魔族の一覧は完成している。
「残りは明日にいたしましょう」
列の途中で切られたが、順番を待つ獣人から文句が出ることもなく、平和に謁見の間の大扉は閉ざされた。これからこの部屋は模様替えし、叙勲式が行われれる。
「忙しくなるわ」
大公夫人として大人しく檀に立っていたアデーレは、パチンと指を鳴らして侍女長の制服に着替える。それを合図に、集まった侍女と侍従のコボルトが動き出した。
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