822. 誰も反対出来なかった
「というわけだ」
簡潔に説明したルシファーに、アスタロトは頭を抱えた。まだ果物を頬張るベルゼビュートがもごもごと発言する。
「ひぃひゃにゃい。やっひゃえば(いいじゃない。やっちゃえば)」
無責任極まりない発言だが、この世界の魔族には共通のルールがある。基本的に「自己責任」であり、食べるも食べないも己の選択による結果は、己で責任を取る。そうでなければ、魔王チャレンジを含む強者への挑戦権が成り立たなかった。
攻撃と食中毒を同じレベルで語るのはどうかと思うが、ルシファー本人は毒や状態異常が無効になるため大した違いを感じていない。ベルゼビュートはさらに続けた。
「ルキフェルがその気だから、中止にするならベールが怖いわよ?」
アスタロトが対決するならご自由に。そんな言い方で、己の責任を回避する。祭りの続きを提言しに来たのは彼女なので、飛び火したら大変と火元をルキフェルに押し付けた。何らかの意図は感じ取るものの、諦めたアスタロトが許可を出す。
「いいでしょう。自己責任ですが、食べて不具合を起こした種族は……ベルゼビュートの担当にします」
「え? いやよ」
「祭りを続行するか中断するか。城下町ダークプレイスで賭けの対象になっていると聞きました」
だからどうとは言わない。ただ笑顔を浮かべて、ベルゼビュートの回答を待つのみだ。祭りの続行に金貨2枚を賭けたとバレているのかしら。疑心暗鬼のベルゼビュートが口にできる答えはひとつだけだ。
「わかったわ」
治癒魔法ならば、ベールの回復の方が早いし確実なのに。学習能力が少しついたベルゼビュートは文句を内心に留める。大地から魔力を回復できるベルゼビュートを治癒担当に任命し、やり込めたアスタロトはルシファーに向き直った。
飴を口に入れて発言を禁じられたお姫様は、からころと飴の音をさせながらアスタロトとルシファーを交互に見つめる。無言を貫くシトリーは、なんとかこの部屋から逃げ出せないかと視線を彷徨わせた。緊迫した場へ同僚が顔を見せる。
「おはようございます、陛下。リリス様」
レライエは本日はワンピースではなく、キュロット姿だった。刺繍がされたシャツと、花模様のキュロットの組み合わせは少女らしさを引き立てる。肩乗り翡翠竜が「おはようございます」と頭を下げた。小型の時は赤子と一緒で、胴体より頭の方が大きい。失念していたアムドゥスキアスが転がり落ち、慌てて翼を広げたものの、先に婚約者レライエにキャッチされた。
「気を付けろ」
「ありがとう! レライエの婚約者になれて、私は幸せ者だ」
かつての番が冷たかったこともあり、優しくされたと頬を染めた彼の尻尾が左右に揺れる。感動や愛情に対する敷居の低い翡翠竜を、ちょっと憐れむ目で見てしまったルシファーが「ごほっ」と咳をして場を仕切り直した。
「とにかく、今日はイカ? 魔物焼きイベントだ」
「ルシファー様、イベント名を変更しましょう。その名前ですと、他の魔物も焼くように聞こえます」
「焼けばいいじゃない」
飴を右頬にずらして発言したリリスだが、ルシファーの指が右頬の飴をつついて押し出す。再び発言は封じられた。だが発言の内容に、ベルゼビュートが色を付けた。
「コカトリスも残ってるし、普通に焼肉でもしたら?」
「素敵よ、ベルゼ姉さん」
照れる同僚のピンクの頭をどつきながら、アスタロトは貯蔵された魔物肉の量を計算する。確かに足りますが……今年は即位記念祭自体が長引いています。各種族の代表も疲れているでしょうから、明日のお披露目の前に慰労会を行うと思えば、問題ないでしょう。
「慰労会を兼ねて、先に打ち上げを行うのもいいですね」
魔王城の財布の紐係の許可が出たことで、即位記念祭の狩りイベントに続く焼肉大会が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます