1367. 家族との絆を深めて――前夜祭5
翡翠竜に乗ったレライエは、一族の大歓迎を受けていた。竜人族は普段人型をしていることが多い。一部の力が強い者は竜化が可能だった。レライエは両親が竜人族と竜族のため、竜化をあっさりと習得している。翡翠竜との婚姻が一族に認められたのも、その能力故だった。
さすがに我が子が孫を産めない可能性があれば、番として認めるはずがない。人化した翡翠竜が少年姿であることも手伝い、当初はそれぞれの種族から反対意見が出た。大公女まで上り詰めた才女、瑠璃竜王に次ぐ実力者である翡翠竜。どちらも子孫を残して欲しいと願うのは、当然だった。
「レライエ、幸せになるのよ」
すでに神龍族に嫁いだ姉の言葉に頷く。家族に愛されて育った末っ子は、嬉しそうに父親の腕に飛び込んだ。置いて行かれたアムドゥスキアスがおろおろする。そこを捕まえたのは、神龍族や竜族の若者だった。
「ようやくアムドゥスキアスも結婚か」
「大公候補から零れて1万年あまり、長かったなぁ」
「俺の爺ちゃんの時代の話だぞ」
げらげら笑いながら、年長者である翡翠竜を揶揄う。照れて赤い顔を両手で押さえ、いやんと身を捩る姿は幼く見えた。実際眠っていた期間が長いため、精神的な成長はなかった。その意味で、長く大公を務めたルキフェルの方がよほど大人だ。
「忘れないでよ、アドキス。レライエの後見人は僕だからね」
ルキフェルが釘を刺す。万が一にも泣かせたら、新しい魔法陣の実験に使うから。きっぱり脅されたものの、翡翠竜は懲りない。うっとりした顔で「お仕置きもいい」と呟いた。ただし「ライからのお仕置きに限る」の文字が後ろに隠れている。
「この変態が結婚出来るんだから、若い子も頑張らないとね」
見た目だけなら成人前のルキフェルに発破をかけられ、若い竜や龍が気合を入れる。特に神龍族は最近出産率が下がっているので、若者の早期結婚は重要だった。折角多くの種族と同族が集まった場なので、一斉にお見合いが始まる。
両親による我が子の売込みに盛り上がる一族の輪を抜けて、ルキフェルは美しい青い鱗をひらめかせた。空を舞う彼の姿に、他種族からも感嘆の声が上がる。これがきっかけとなり、竜や龍と他種族の交流が加速したとか。
鱗と羽根という互いの一部を交換し合った二人は、祝福に包まれて幸せそうに微笑む。
「素敵なお嫁さんだ、大切にしろよ」
従兄弟や親族の言葉に頷くグシオンは、真っ赤な髪に差した羽根飾りを指先で撫ぜる。シトリーの双子の兄は、明日義弟になるグシオンの肩を叩いた。小柄な義兄を振り返れば、少し悔しそうな顔をしている。
「大事な僕のお姫様だ。不幸にしたら呪うからな」
「絶対に幸せにします」
言い切ったことで、ジズを含めてわっと歓声が上がった。その様子を少し離れた場所で見つめるシトリーは、流れる銀の髪に指を滑らせた。細い鎖の先端で揺れる赤い鱗は、グシオンが結納の品として激痛に耐えて用意してくれた。大切な愛の証だ。
「よかったわ。あなたが幸せになれるなら……それが一番」
「ドラゴンの子が産まれたら、育て方は聞いてね」
「あら。さすがにまだ早いわよ」
おほほと笑い合うのは、グシオンと同じ炎龍の一族だった。互いに快く受け入れ合ったため、早くから交流を深めてきた。休暇が取れると一緒に過ごし、すでに昔から付き合いがあった親戚のような居心地の良さがある。
「よろしくお願いいたしますね、お義母様」
グシオンの母は感激し、涙で顔をぐしゃぐしゃにして何度も頷く。声にならない彼女の喜びを、周囲の同族は羨ましそうに見つめた。
「うちの子も、シトリーちゃんみたいに可愛い嫁を見つけて来ないかしら」
「さっきから向こうでドラゴンのお見合いが始まってるわ」
「乗り遅れないよう、あのバカ息子の尻を叩いてこなくちゃね」
逞しいドラゴンの母親達は、己の息子をレライエ達のいる方へ送り出した。その後、多くのカップルが産まれ……数年後に予想されたベビーラッシュが訪れたのは、当然の結果である。
結婚式の前夜は騒がしく更けていった。
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