135. 呪いの髪飾りとなりました
「陛下……どうして」
「ごめん、悪かった。ほんっとうに悪気はなかったんだ」
両手を合わせてベールに謝罪する。しかし彼の怒りは収まらなかった。隣でアスタロトも渋い顔をしている。街の様子を見てくるとベルゼビュートは逃げ出し、リリスと遊び出したルキフェルも現実逃避した。残されたのは叱られる魔王と、叱る側の側近2人である。
「ちゃんとリリスから返してもらったから」
許して欲しいと願い出る。腰に手を当てたベールの表情は変わらず、アスタロトも機嫌を直さない。そこまで叱られる原因は――ルシファーがつけていた髪飾りだった。
白い髪に映える様々な色の宝石がついた飾りは、全部で7つある。即位以来、1万年ごとに1つ新調されたお飾りは、即位記念祭で必ず身に着ける決まりだった。
リリスに請われるまま渡した飾りは、特別な事情があったのだ。髪飾りとして用いているが、元は過去の王冠の一部だった。王冠という形を嫌がったルシファーのため、儀式や祭典に身に着ける髪飾りに作り変えた宝石や輝石類は、国が傾くほどの財産だった。
子供の機嫌取りに渡してよい物ではないし、そもそもが王冠の代わりだ。リリスが身に着けるということは、跡取りとして認定したと勘違いさせる可能性があった。
勘違いして騒ぐだけならまだいい。世継ぎを決めたと考えた民の一部は「代替わりが近いのか」と不安に駆られ、また別の民は「魔王様の体調が思わしくないらしい」と心配した。先日まで逆凪による不調が報じられた魔王の行為は、深読みされる余地ありまくりだ。
貴族の中には「リリス嬢は嫁候補ではなく、跡取りだった」と騒ぐ者が現れた。さらに2つの飾りを身につけた幼女に「領土の1/3をお譲りになる算段だ」と妄想が広まる。
噂や騒動に気付いたベールが駆けつけたとき、お飾りを左右につけたリリスはご満悦だった。彼女は単に優しいパパからプレゼントをもらった感覚だが、側近や貴族はそう簡単に終われない。
「以前、王冠から作り直す際にお約束したでしょう。たとえ王妃になる方であっても、他者に渡さないと……なのに」
がくりと崩れ落ちたベールの嘆きように、心底反省する魔王である。しょげた魔王の姿に怒りが和らいだアスタロトが手を差し出し、預った髪飾りをルシファーの髪に乗せた。地金に刻んだ魔法陣のおかげで、落ちてなくなる心配は不要だ。
「ベール。過ぎたことを
擁護するフリをしながら、盛大にディスる。アスタロトの容赦ない手並みに溜め息をつくルシファーだが、反論するような
「ベール、もう誰にも渡さない。約束する」
「ルシファー様のお約束は当てになりません」
きっぱり切って捨てられた。がくりと肩を落とすルシファーだが、ベールがとんでもない提案をする。
「この髪飾りに死の
違う……提案じゃなかった。確定事項として伝えられ、ルシファーが顔をしかめる。
「やり過ぎじゃないか? 間違って身に着けた者がいたら」
「そんな輩は、私が即時処刑します。どちらにしろ死ぬなら、
反論を受け付けないベールの断言により、魔王の王冠である髪飾り7つは『即死の呪われた魔道具』と化した。あっという間に刻み終わった即死確実な髪飾りを再び装着する。もう飾りではなく、人殺しの装備だった。
「パパぁ、おこられるのおわった? リリスおかしたべたい」
原因であるにも関わらず、リリスは抱っこを望んで手を伸ばす。抱き上げて綿菓子を手渡したルシファーは、誰も触れられぬよう髪飾りに結界を施した。
怖い笑みを浮かべたベールを振り返る。
「この呪い、無差別じゃないか?」
「そうですね。だって陛下は
だから問題ありません。即死の呪い効果範囲は『魔王以外』ではなく『髪につけた全員』に設定されていた。その後数十年で噂は広まり、魔族の間で誰も身に着けられない強力な効果がある『呪われた王冠』として有名になったとか、ならなかったとか。
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