134. パパに似てる?

 今年は魔王の愛娘がお披露目をすると聞いて、貴族の子女が多く参加していた。5歳以下の子供も意外と多く、年齢はまちまちにみえる。だが実年齢と外見年齢が一致しない一族も多いため、誰も言及しないのがルールだった。


「今年の代表はリリスちゃんにお願いします」


 紹介されたリリスがきょとんとした顔で、ルシファーを振り返る。お人形さながら、動けないほど豪華な衣装に包まった幼女は、自分を抱き続ける保護者に無邪気に尋ねた。


「パパ、なにするの?」


「さっきみたく、翼をばさっとしてごらん。ほら、こんな感じ」


 4枚の黒い翼を見ていたリリスが納得した様子で頷いた。彼女が赤い瞳を伏せると、すぐに背中から白い1対の翼が広がった。身長に匹敵するような大きさのルシファーに対し、お尻まで届くかどうかの小さめの翼だ。


 同時に彼女の頭上に光る輪が出現する。アスタロトの髪色に近い淡い金色の輪は、珍しい特徴だった。


「きれいね~」


 女の子がひとり褒めると、我に返った貴族達が口を揃えて褒め称える。満足げなルシファーの腕の中で、リリスが「うぅ」と唸った。心配して覗き込んだルシファーの顔に、羽が直撃する。ばさっと大きな羽ばたき音が響いた。


「いてっ」


「パパ、もっと出た!」


「ああ………はあ?」


 羽が目に当たって閉じていたため、リリスの言葉の意味を理解するのが少し遅れた。開いた銀の瞳に飛び込んだのは、2対4枚の翼をばたばた動かす愛娘の姿だ。


 出たって……普通、翼は出るものじゃない。2枚でも立派なのに、さらに追加で増えるなど驚きすぎて、周囲もざわめいた。だが魔王自身が非常識な強さを誇ることもあり、貴族達はあっさり納得する。


「素晴らしいですな。さすがは陛下のご息女です」


「見事な翼、魔力量も申し分ありません」


 口々に褒めてくれる魔族を他所に、ルシファーだけが眉をひそめた。翼が2枚以上ある種族に心当たりがなかったのだ。魔王の座に君臨して7万年以上、この世に生まれて8万年近く……自分以外に複数の羽をもつ魔族を知らない。


 ……リリスは誰の血を引いている?


 初めて、そこに疑問を持った。強大な魔力を持つ以上、親も同様に強い魔力をもつ種族だと考えてきた。そこに問題はないが、2対の羽は想定外だ。


「リリスはパパに似てる?」


 養女でルシファーの血を引いていないリリスだが、誰かに言われた一言を気にしたのか。不安そうに唇を尖らせて尋ねた。


 ひとつ深呼吸して、ルシファーは考えを放棄する。彼女は自分の可愛い可愛い娘で、いずれお嫁さんになる女の子で、翼が沢山あって天使の輪も持ち合わせる実力者だ。それだけ分かっていればいい。


「ああ、パパにそっくりだ。自慢の娘だぞ」


 頬にキスを落とすと、擽ったそうに首を竦めてから笑う。無邪気なリリスの笑い声に、お披露目会場が和んだ。


 他の子供も特技や変化へんげを披露する中、リリスは楽しそうに小声で鼻歌を歌う。多くの人に褒められたのが嬉しかったらしい。4枚の翼を出しっぱなしにした彼女は、髪につけた飾りを指先で弄りながら、ずっとルシファーの腕の中で笑っていた。


 迎えに来たアスタロトが4枚の翼を、思わず指差して数え、目を閉じて首を横に振る。もう一度数え直し、複数対の羽に絶句するまで――あとすこし。

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