490. 視察はいつものメンバーで
「突然呪詛を使い始めたのは……8代前の勇者でしたか」
その頃に今回の騒動の原因である異世界人が、この世界に関与したのではないか? アスタロトの疑問に、ベールも記憶を探った。
「その3代前の勇者も奇妙な道具を持ち込んでいました。あの時代から、勇者の数も発生頻度も増えています」
発生頻度、まるで災害のような言い方にルシファーが苦笑いする。否定できない面もあった。魔王から見れば、自分が対処しなければならない勇者の攻撃は、ある意味自然災害と変わらない。
「また調査中だけど……僕の仮説では、この世界に満ちる魔力が流れ出て減ったことで、魔の森の拡大を招いたと考えてる。魔の森は木を伐られると、周囲から魔力を集めるでしょ? 今回のルシファーの魔力が放出された後から、魔の森が急成長したんだよね。魔力が減り続ける世界で、蓄えようとしてるみたいだ」
12枚の翼の半数近くを失った。その魔力は使用されて散ったため、魔の森に吸収される。つまり新しく生まれた森の源は、魔王の魔力ということだった。大量に放出された魔力を魔の森が吸収すれば、世界からの流出を防げる。
驚くべき速さで森が成長する理由を、魔力が減らないように森が自らの身で食い止めていると仮定すると、説明がつくのだ。
「すぐに結論は出ませんね。明日から陛下には、視察に出ていただきましょう」
「魔の森の視察か?」
いつもなら視察は街や村など、魔族の住まう場所で行われる。民の生活を実際に見て、直接話を聞くためだった。アスタロトはルシファーへ頷いた。
「ええ。魔の森の変化は、民の生活に直結する一大事ですから」
「あたくしが一緒に行くわ!」
森の木々や精霊に対し、もっとも影響力のある精霊女王ベルゼビュートの同行を断る理由はない。ルシファーは彼女に微笑みかけた。
「ああ、頼む」
嬉しそうなベルゼビュートは「何を着て行こうかしら」と浮かれている。ルシファーはすこし考えて、護衛の手配を始めた。
「イポス、ヤン、あとは……少女達を同行させてはどうか?」
「足手纏いになりませんか」
懸念を表明するアスタロトは、召喚者達の住居や仕事の手配がある。ルキフェルは魔法陣の研究に籠るだろうし、ベールは通常任務から抜けられなかった。普段はベルゼビュートが担当する地域の魔物狩りを、魔王軍に割り振らなくてはならない。
同行者が限られる中、彼女達4人が足手纏いになる可能性を心配していた。ベルゼビュート、ヤンやイポスは自分の身を守れるが、魔力が半減したルシファーにあまり余力はない。リリスと自らを守り、さらに少女4人が加われば負担が大きすぎる。アスタロトの懸念も当然だった。
魔の森で何が起きているかわからないのだ。
「パパぁ! リリスもいく!」
頭数に自分が入っていると知らずに、リリスは勢いよく手を挙げた。ルキフェルにもらったお菓子を食べ終え、口の端にクッキーの粉をつけたままだ。
「リリスを置いていくわけないだろう。一緒だぞ」
「みんなも?」
「そうだ」
ルシファーが断言したことで、少女達の同行も決まった。通達を側近に任せ、ルシファーは立ち上がる。
「出立は明日の午後とする。アベル、イザヤ、アンナはついて参れ」
リリスの口元をハンカチで拭い、キスをしてから歩き出す。さっさと部屋を出て行く主を見送ったアスタロトは、いざという時動けるよう手配を始めた。
「行こう」
アベルがすぐに続き、アンナを横抱きにしたイザヤのために扉を開ける。仲良く後を追う3人を連れ、ルシファーは前庭へ向かった。
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