1166. どこの種族かしら

 大量の何かの子どもだ。人族と違う、角や翼があって魔力も感知できるので、少なくとも魔物に分類できた。後は意思の疎通の有無だが……赤子の意思はどうやって確認するべきだろうか。困惑顔のルシファーの後ろで、アスタロトが義娘に報告を求めた。


「ルーサルカ、これはどういう状況ですか?」


 仕事バージョンなので、「ルカ」と愛称で呼ばない辺りがアスタロトらしい。進み出たルーサルカだが、彼女も魔物と思われる赤子を抱いていた。ムッとした顔になるのは、彼女が将来出産した時の光景を想像したからか。いや、出産の前の結婚の段階から機嫌を損ねそうだが。


 恐る恐るルシファーはリリスの隣に逃げる。距離を取られたことに気づいたものの、アスタロトは何も言わずに放置した。彼の機嫌はさらに悪化した気がする。


「この子達は家の前に捨てられていたのです。少々夜更かしをしたため、朝はゆっくり起きました。ベッドから出て朝食の支度を始めたところで、体を解そうとしたイポスとレライエが外に出て発見しています。私はルーシアと一緒に朝食を作っていたので、彼女達の悲鳴に気づいて駆け付けました」


 以前の教訓を生かし、しっかり報告を行う。出来るだけ主観を交えず、客観的に淡々と事実を並べる。簡単そうで、やってみると難しかった。ルーサルカの報告に頷いたアスタロトに、彼女はさらに続けた。


「レライエによると、ドアを開けて数歩のところに籠が置かれていたそうです。中を覗くとこの子達がいました。意思の疎通はできませんが、通常の魔物と姿が違うので私達が知らない魔族の子の可能性があります。そのため、皆で連れ帰った次第です」


「よくできました」


 ……オレの時は殴られたけどな。連れ帰るのは同じなのに、オレの時と扱いが違い過ぎないか? アスタロトへ無言の抗議を向けるルシファーだが、さらりと無視された。


「ルシファー様、死なせるのも寝ざめが悪いですから保護しましょう」


「オレの時は怒るじゃないか」


「なんのお話でしょうか?」


 射貫くような眼差しに、余計な発言をしたと魔王は口を噤む。この辺は引き際を誤ると城が崩壊するたあめ、さすがに慣れていた。釈然としない気持ちも上手に昇華して笑って見せる。


「いいんじゃないか? お前が責任を取るなら」


 オレは知らない。いつも言われる言葉をそっくり返した。途端にアスタロトはにっこりと笑い、アデーレを呼んだ。くそっ、卑怯だぞ。面倒見の良さでは最強の侍女長は、愛らしい子ども達に目を細める。


「何かございました……あら、可愛い。翼と角、この牙も立派ね。どこの種族かしら」


 やはり彼女も種族が分からない。大人になると特徴が出て来る種族もいるため、これはルキフェル辺りじゃないと分からないか。神獣の類ならベールの判断も欲しい。戦場で暴れる彼らを呼び寄せるほどの事件でもなく、後で解決すればいいのでアデーレに預けた。


 リリス、ルーサルカ、ルーシア、レライエが抱いていたので、4人だ。全員同じ種族らしく、小さな円錐の角が頭に2本、翼は鳥に似ているが飛べる大きさではない。背中の飾りのように小さかった。魔族にとっての翼は魔力が豊富な証なのに、濃茶の髪をしている。肌は亜麻色で瞳は濃茶だった。アンバランスな子どもたちは、アデーレの手で魔王城に運ばれる。


 見送ったリリスは珍しく無言だった。


「どうした? リリス」


 ルシファーが視線を合わせるために屈んだ。その時、後ろで悲鳴と同時にぱちんと結界に干渉する気配を感じる。


「アデーレ!?」


「お義母様!」


 アスタロトとルーサルカが走り、ルシファーは咄嗟に結界を張って大公女達を守った。腕の中のリリスが溜め息を吐く。


「あの子達ね」


 見透かしたような呟きの通り、城の結界に干渉したのは赤子達だった。

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