233. 幼女は嫉妬をおぼえる
リリスが怒っているのは分かる。不機嫌なのも伝わってきた。だが理由がわからないので、膝の上のリリスと視線を合わせる。
「どうしたんだ?」
「この人、だぁれ? なんでパパの隣にいるの」
頬が膨らんで、唇が突き出される。可愛い……やばい、とにかく可愛い以外の言葉が出てこなかった。ぎゅっと抱き締めると誤魔化したと思ったのか、リリスが小さな拳でぽかぽかとルシファーを殴る。
「パパ! もう!!」
「ごめん。リリスが嫉妬してくれると思わなかったな」
にやにやと顔がだらしなく緩んでしまう。まだリリスの手は胸元を叩いている。胡坐の上にぺたんと座ったリリスをそのまま抱き締めた。叩いていた手が少し収まる。
「隣の人は長の娘さんだよ。お酒を
事実を教えると、叩く手が止まった。ローブに包むように抱いたリリスが顔をあげる。まだ唇は不満そうに尖っているが、赤い瞳はまっすぐにルシファーを見つめた。
「ホント?」
「ああ、オレはリリスが一番だから、こうやって抱っこしてると幸せだ。同じようにリリスも幸せだといいが、どうだ?」
「……うん」
尖った唇がふわっと笑みの形に変わる。嬉しそうなリリスを引き寄せて、その背中や黒髪を撫でてあやした。
「パパはリリスが好き?」
「大好きだ」
即答されたことが嬉しいリリスは、照れて顔を隠してしまった。ぎゅっと両手を背に回そうとする幼女に、自然と顔が和らぐ。絶世の美貌が溶けたことで、隣で酌をしていたハーピーが真っ赤になって卒倒した。長が倒れた娘を回収していく。
「パパ…」
「どうした、リリス」
「呼んだだけ」
この場にハーピーがいなければ「最高に可愛すぎる!!」と絶叫したい気分で、ルシファーはリリスを包む。誰にもこの可愛い生き物を見せないように、自分のものだと独占欲を主張するように、黒いローブですっぽりと隠した。
「……陛下、お部屋をご用意しましょうか?」
村の娘達に目の毒だと長がおずおずと申し出ると、ルシファーは首を横に振った。報告は終わっているし、もうこの村に残る意味はない。
腕の中のリリスは眠ったわけでもなく、もぞもぞと動いている。今更恥ずかしくなったようだ。顔を見せられなくて、ルシファーの首筋に腕を回して抱きついたまま。こんな可愛い娘の姿を他人に見せる気もない。
「次の視察がある。もう失礼するとしよう」
胡坐の姿勢からリリスを落とさないよう器用に立ち上がり、左腕にリリスを座らせる。首に両手を絡めて抱きつき、白い髪に顔を隠してしまうリリスの背をぽんぽん叩いて、足元に魔法陣を浮かべた。
「歓待ご苦労であった」
労いを終えると転移する。今回の視察は時間が余りそうなので、急ぐ必要はなかった。それでも恥ずかしがるリリスが可愛くて、あまり人目に晒したくない。自分だけが知っていればいいと思うので、さっさと森の上に移動した。
「リリス、もういいぞ」
ちらっと目を合わせるが、リリスはまた髪に顔を埋めてしまう。くすくす笑いながら、上機嫌のルシファーは4枚の羽を広げた。この先は魔の森の中でも危険度の高い魔物が多い地区に入る。
唸り声が聞こえる森の上を飛びながら、さらに奥にある館を目指した。元々は療養地として作られた屋敷と庭なのだが、放置されて数百年経つ。魔王軍が魔物討伐の際に利用する程度の使用頻度しかなかった館に着くと、部屋の半分ほどに明かりが灯っていた。
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