1172. 発見された両親は……

 魔王城主導で、大公、貴族総出の「4人の赤子の親大捜索網」が敷かれた。ほぼ全世界に指名手配されたに等しい。アベルのそんな呟きに、アスタロト達は名前や顔を出していませんが……と突っ込んだ。そんな状況で親が見つからないはずはなく。


 数日後に有力情報が持ち込まれた。魔獣の子の可能性が高いと広まったこともあり、ヤンや魔熊も手伝ってくれたのだ。おかげで僅か3日で隣の大陸まで伝わるほど情報伝達が早かった。


「こちらが両親と思われる方々です」


 情報をもとに魔王軍と出向いたベールが連れ帰ったのは、角兎と魔狼のカップルだった。だんまりで事情を話さないという。妻である魔狼が角兎を咥えて移動するのだが、どう見ても捕食された餌のようだ。当事者が気にするといけないので、種族や外見の違いについては口にしないのがルールになっている。


 種族も生態もまったく違う魔狼と角兎だが、森での遭遇率は高かった。同じような環境で生活するが、獲物や習性の違いでケンカにならない。魔狼はアバラが見えるほど痩せており、角兎も毛艶が悪かった。


 魔王城の謁見の間に連れてこられた2匹は、ぺたんとひれ伏して魔王に敬意を示した。その足元に絨毯を敷いて赤子を膝に乗せるリリスが、ほらと段下の両親を見せる。


 きゃうっ! 奇妙な声を上げた1人が階段を勢いよく転げ落ち、続く2人目は後ろ向きによじよじと降り始めた。3人目が飛び降りたが受け身を取り損ねて、母狼にぶつかるまで転がる。そわそわして立ち上がった母狼が、転がった赤子を引き寄せてぺろりと舐めた。


 足が竦んだのか、兄弟の壮絶な転がり方に驚いたのか。1人は動けずに鼻を鳴らした。こうしてみると確かに人型はしているが、魔獣の子だと思われる。行動や鳴き声がそれを示していた。両親を見て育ったため、同じように鼻を鳴らしたり唸って会話をするのだろう。


 我が子の必死な様子に、父親である角兎が身を起こして訴える。内容としては、互いの親から結婚の承諾が貰えずに駆け落ちしたところからだった。2匹で幸せに暮らせればいいと思ったが、どちらも群れをなして狩りをする種族だ。すぐに生活は行き詰った。そんな中で母狼が妊娠し、さらに生活が困窮する。


 餌を獲る狼が動けないならと夫の角兎も頑張った。だがお腹いっぱい食べることが出来ず、生まれたのは知らない種族……どう育てたらいいのか困惑しているところに、母狼の乳が出なくなった。獲物を満足に取れない状況では仕方ない。だが頼る親族がない彼らは当方に暮れ、やがて誰かに預けることを思いついた。


 魔王城の城門なら襲われる前に誰かが引き取ってくれる。そう考えた2匹が向かう途中、手前にある西の森でリリス達に気づいた。強大な魔力を持つ女性ばかりの集団、きっと彼女らなら育ててくれるに違いない。希望を託して置いて行ったのだ。実は、拾うところを陰から見ていたらしい。


 そこまで話した角兎は、申し訳なさそうにリリスへ頭を下げた。処分は自分が受けるから、妻は子ども達のために許して欲しい。魔王や魔王軍まで出動する騒ぎになり、角兎は己の命で納めてくれるよう願った。悲しそうに鳴く母狼の声に釣られ、赤子達も鳴き真似を始める。


 リリスはごそごそと収納へ突っ込んだ手を止め、何かを引っ張り出した。それからルシファーに向き直り、助けて欲しいと強請る。


「ルシファー、可哀想よ。不可抗力だわ」


「……種族間でいろいろあるが、これは罰を与えないわけにいかないんだ」


 諭すようにリリスへ話した。ルシファーだとて心情的には無罪にしたいが、赤子を大切に考える魔族にとって捨て子は重罪になる。そこでアスタロトは苦肉の策というべき、ひとつの案を口にした。


「魔王陛下、彼らには罰として魔王城の裏庭の整備を命じましょう。エルフから手が足りないと申し出がありましたので、ちょうどいいですね。もちろん罰なので給与は出せません」

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