1196. 教師陣が羞恥プレイ?
アデーレが中心となり、各種族の貴族家当主やその夫人が名を連ねる教師陣は、基本的な方針を確認しあった。中途半端な隠し事をしてぼやかした結果が、今回の事件である。前回の性教育が不十分……というより、リリスが理解するに至らなかったことで、魔王の魔王が痛い目を見た。
アンナの教え方はハードだが、多少ボカシもあった。というのも、彼女自身が未経験者だったのだ。日本人としての知識で説明したが、やはり経験者が語るのとでは細かさや配慮の場所が違う。今回はきっちりボカシなしの無修正で行く! そう拳を握って気合を入れるアデーレや貴族達は頷き合った。
「ご機嫌よう、皆様。本日の性教育を担当します……はぁ?! なぜ陛下がこちらに!!」
まず一般的な知識の復習から、と言うわけで派遣されたのがドラゴン種のレライエの母である。機嫌よく部屋に入って並んだ生徒を見回しながらの挨拶は、素っ頓狂な声で終わった。魔王陛下が参加するなんて聞いてない!! 青ざめていく彼女に、ルシファーは平然と頷いてみせた。
「問題ない。今日は一生徒として扱ってもらいたいので、講義を始めてもらえるか?」
穏やかに微笑む純白の魔王……その美貌は輝くばかりである。そんな美形の異性を前にして、レライエ母は緊張に生唾を飲んだ。偉い人というより、単に美形相手に生殖器の話をするのが恥ずかしい。おどおどしながら、人型の生殖器について説明を始めた。
ボカシなしの無修正。その合意が重くのしかかってくる。それでも彼女は頑張った。涙目になりながら、質問にも答えた。男性器については夫が説明する予定だが、女性器については母の担当である。繊細であること、洗いすぎると雑菌が増えて危険なこと、生理に関する知識。様々な話を終える頃には、メンタルはボロボロだった。それでもやり切った充実感はある。
「以上ですわ。ご質問は?」
「「「ありません」」」
何度も途中で質問と応答を混ぜた効果で、最後の確認はスムーズだった。女性の繊細な体と、ドラゴンの雌に関する知識を話し終えた母に、娘レライエは誇らしげに微笑む。
「お母さんが教師でよかった。アドキスとの婚約だから、ドラゴンと竜人の結婚になるし……誰に聞けばいいかと思ったが、今回の講義で疑問が解消できた」
「ええ、それは教えるつもりだったわ。でも陛下もいる前で説明するのは、かなり……」
疲れたと言えば失礼だろうか。ちらりと視線を向けると、リリスを膝に乗せた魔王が「感謝する」と一礼した。教師と生徒、本当にその間柄で通すつもりらしい。反射的に頭を下げた母は、よろよろと教材を手に部屋を出た。途中で説明用の生理用品を落としたが気づかない。それを拾ったのは、ルーサルカだった。
「ドラゴンから人化できない竜族は、こんなに大きいのを使うのね」
教材で見たばかりの大きなオムツもどきを収納に放り込み、後で返しておかなくてはと足早に城門へ向かう。今日はアベルと約束があるのだ。仕事の調整は魔王命令でクリアしたらしく、明日から一緒に講義を受けることも決まっていた。
浮かれたルーサルカの後に、まだ顔の赤いルーシアとジンが出てくる。
「やはり女性はデリケートだから、大切にしなくてはいけないと再確認したよ」
肩を抱いた婚約者の青い髪に口付けるジン達が通り過ぎ、廊下は再び静かになった。そこへ騒がしく出てきたのは、レライエ達だ。
「ライが僕の卵を……僕の」
うっとり繰り返す婚約者を無理やりバッグに押し込み、上から押さえ込んだレライエは赤い頬を膨らませて急ぎ足で自室へ向かう。卵と言われて実感が出て来たらしい。まだ感動しているアムドゥスキアスの声が聞こえなくなる頃、ルシファーとリリスは腕を組んで廊下に出た。シトリーの銀髪に指を絡めるグシオンが後を追い、部屋は静かになる。
真っ赤な顔で取り残されたアンナとイザヤは、互いの顔が見られなかった。困った末、手を繋いで互いを見ないという難しい選択をして、レラジェが待つ城下町の自宅へ向かう。大きなお腹を撫でるアンナを心配したヤンが送り迎えを買って出たため、フェンリルの背中に乗ったところで……ちくりと痛みが走った。首を傾げたものの、久しぶりに動いたからねと微笑んで腹を撫でる。今夜は何を作ろうかしら。
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