1302. 脅迫状がまた1枚
証拠品の脅迫状を手に、ルシファーとリリスは門番のいる城門へ向かった。一応書類を最初に受け取るのは、門番の仕事だ。それから文官達に回されて、各部署に届けられる。中にはそのまま処理に入る書類もあった。
城門前で羽を広げる鳳凰に手を振る。
「休憩中にすまない。この手紙に見覚えはないか?」
アラエルは首を起こしてじっくり確かめた後、記憶を辿るように空を見つめた。少しして裏返った格好で腹を陽に晒す。
「その手紙は確か、商人が運んできましたね。兎? いや……もう少し小さい種族でしたよ」
このくらい。羽の先で大きさを示すが、それでは熊サイズだ。休憩で蕩けた頭は作動していないらしい。それでも記憶を探ってくれた礼を言って、おやつを提供した。身を起こして丁寧に受け取り、ピヨと食べると嬉しそうだった。
アラエルから距離を置いた後、出入りの商人を調べるために移動する。途中で双子を連れたアンナに出会った。
「久しぶりね」
リリスが先に声を掛けたので、足を止めて雑談する。アンナはまだ育児休暇中だが、この子達を預ける保育園の申し込みに来たらしい。かつてリリスが通った保育園も使えるため、希望者はほぼ全員が入所できる。その話を聞いて安堵したと笑った。
アンナのいた日本では、保育園が足りなくて争奪戦だったと聞き、ルシファーは顔を引き攣らせる。子どもを預けるのに戦うのか? なんて殺伐とした世界だ。さぞ孤児が多い世界だったのだろうと気の毒がる。
互いの勘違いに気づかぬまま話は進み、思わぬ収穫を得た。というのも、保育園の園長を務めるミュルミュールの元に、脅迫状が届いたという。リリスと顔を見合わせ、内容を尋ねるが手紙が届いた話しか知らなかった。礼を言って別れ、保育園の管轄部署へ足を運ぶ。
ルキフェルの研究所の手前にある長屋タイプの平家は、5つの部署が入っていた。その一角で、ルキフェルが騒いでる。
「どうした?」
「あ、ここも脅迫状来たんだよ。なのに見せてくれないの」
ぷんと頬を膨らませたルキフェルが文句を言い、困り顔のミュルミュールが首を横に振った。
「違うわ。見せたくても手元にないのよ」
「どういう意味だ?」
ルシファーが問うことで、ようやく話の全容が見えてきた。脅迫状が届いたのは今朝で、新しい保育園に必要な家具や玩具の調達用に彼女は申請書を作成していた。届いた手紙の内容が脅迫文だったため、念のため軍の専門部署へ送る。その後戻ってきていないようだ。
「軍が持っているなら、ベールか」
現場の担当は別だが、書類の処理権を持つ上司はベールになる。だが、現時点でベールの魔力は隣の大陸にあった。言いつけられた仕事を片付けているようだ。
「ベルちゃんがいないなら、ルシファーが見つければいいのよ! 魔王なんだもの」
リリスがにっこりと促す。まあ、それもそうか。別に彼を呼び寄せてまで、手紙一枚探すことはない。軍が演習中の奥庭を通り過ぎた先にある、寮を兼ねた本部に顔を出せばよかった。
「僕も行く」
当然のようにルキフェルが主張し、先を歩き出した。通い慣れた軍施設へ向かう彼の後ろ頭に、ぴょんと跳ねた毛先を見つける。気になるが指摘すべきか、放置するのも悪いし。
「ロキちゃん、髪が跳ねてるわ」
こういう場面では、空気を読まないリリスの言動は助かる。指先でちょいっと突かれ、ルキフェルが火と水の魔法で蒸気を起こしてハネを直した。
「ありがと」
「どういたしまして」
にこにこと応じるリリスを大物だと評価しながら、ルシファーは新しい謎に胸を高鳴らせる。災害の復旧などと違い、気持ちが昂る事件に夢中だった。
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