231. 魔獣にご馳走オークを振舞う

 手前のオークをまず切り裂く。腹を切り裂くのは、後片付けの魔獣を呼び寄せる囮だ。臓物の臭いがすれば、彼らはすぐに集まってくるはずだった。


 2匹目からは頭を落としていく。どの魔物でも首からの出血は一番激しいため、首を落とせば血抜きが簡単だ。見た目がちょっと子供向けではないが、仕方ないだろう。


「パパ、あの豚さん! ベーコンみたい!!」


 大興奮で彼女が指差す先に、一際大きなハム体型のオークがいた。額に金属の飾りをしたり、他のオークより大きな武器を持っているところから、あれが群れのボスだと判断する。


「ベーコン持ち帰るか?」


「うん! 皆で食べる。あとコカトリスの唐揚げも~」


「帰りに見つけたら、コカトリスも捕まえるか」


 完全に豚肉、鶏肉としての分類になっているが、どちらもリリスにとって狩りの対象だ。ご機嫌でにこにこ笑うリリスに微笑み返し、目の前のオークの首を飛ばす。すべて倒れたオークを確認すると、15匹程だった。


「少ないな」


 数が少なすぎる。群れと表現するなら、オークは30匹以上いたのではないか? 眉をひそめたルシファーが魔力を探るように周囲を見回した。地脈の真上なので、ノイズが多すぎて拾えない。オークやゴブリンの魔力は小さすぎて、感知しても見落とすことが多かった。


 繁殖力旺盛なオークを数匹残せば、あっという間に数倍に膨れ上がる。出来れば根こそぎ片付けたかったが、見つからないので仕方ない。溜め息をついたルシファーの感知に、近づく魔獣の気配が引っかかった。


 魔熊の一種だろうか。茶色の毛皮が近づくが、一定の距離で止まった。そこで身を伏せて大人しく待っている。上位者であるルシファーの許可を待っているのだろう。


「オークの肉を片付けてくれるか?」


 一番大きなオークを確保して収納しながら声を掛けると、低く唸った魔熊が伏せたまま近づいた。


「大きい熊さん!」


 大喜びのリリスに「触らせてもらおう」と提案し、魔熊に歩み寄った。ぺたんと耳を倒し、地面に張り付いた姿勢は敵意がないと示している。魔獣特有の行動に「触れるぞ」と声をかけた。


「触ってもいい?」


「そっとだ」


「うん、触るね」


 魔熊にもきちんと話しかけて、リリスが白い手を伸ばす。魔熊の毛は意外とかたく、艶があるのが特徴だった。そのため触った感触が想像と違ったリリスは驚いた顔をして、次に感想を口にする。


「すべすべして硬いよ! ヤンと違う」


「ちゃんとお礼を言って」


「ありがとう、熊さん」


 ばいばいと手を振るリリスに「くーん」と鼻を鳴らして答えた魔熊から離れると、彼らは慣れた様子でオークを掴んで引き裂いた。この場である程度解体して運ぶつもりらしい。おこぼれを狙う狼や魔犬も集まってきた。


「パパ、あっちに大きい猫がいる」


 いろいろな動物や魔獣の姿に目を輝かせていたリリスが、森の木の枝を指差した。そちらに目を向けると、確かに豹のような大型の猫科魔獣がいる。魔熊がバラして運んだ肉をひとつ横取りすると、木の上で齧り始めた。


「あの子、ずるい!」


「猫科の魔獣はいつもあんな感じだな」


 熊さんのご飯を横取りしたと憤慨するリリスの黒髪を撫でて落ち着かせる。その豹がぴくりと耳を動かした。食べていた餌をそのままに、ゆったり振っていた尻尾をぴたりと止める。一箇所を凝視する豹の様子は何かを警戒しているように見えた。


「何かいるのか?」


 豹が見つめる方へ目を向けると……棍棒片手にオークが走ってくる。


「まだ豚肉いた」


「リリス、豚肉じゃなくてオークだぞ」


 どうしても肉名になってしまうのを修正しながら、威嚇する魔熊達の様子を確かめる。いきなり飛び掛る魔獣がいないのを確かめ、魔法陣をひとつ呼び出した。

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