923. 巨人の国のリリス

 大量の香水を買い込んだリリスに苦笑いし、ルキフェルはそれらを収納へ放る。欲しい香りがあるなら調香してあげるのだが、どうやら瓶が気に入ったらしい。カラフルで美しい香水瓶をうっとり眺め、次々と選ぶ婚約者の姿に、財布片手のルシファーは気前よく払った。


 革袋に詰めた金貨を適当に払う魔王は、大量の金貨をお釣りで受け取った。隣の大公女達にそのまま渡す。


「へ、陛下?」


「それで土産や食べ物を買うといい。使い切れよ」


 支払いのつもりで出した金なので、使いきってしまった方が経済が回るだろう。そう告げれば礼をいって、それぞれに散っていった。


 レライエは見つけた串焼きを購入し、あまりの大きさに驚き、半分ほどアムドゥスキアスに押し付ける。半分こで食べる経験が嬉しい翡翠竜は、他の奴に分けてたまるかと、必死で口に押し込み……頬をぱんぱんにして戻ってきた。


 ルーサルカとアベルはアクセサリー屋を冷やかすが、指輪は巨人用だった。諦めようとしたアベルに、ルーサルカが得意げに魔法陣を作って小さくする。ぴったりサイズに調整した魔法陣の手並に拍手が起きたものの、まだ会計前だったので店主に慌てて代金を支払った。


 ルーシアとシトリーは、シャボン玉を売る店を見つけた。巨人用の輪を使って、シャボン玉の中に入る遊びを思いつき、一式を買い求める。道具を収納に入れて、大急ぎでリリスの元へ戻った。


 その頃のリリスは、久しぶりにルシファーに抱っこされながらアイスを食べている。まだ少し早い時期なのに、時折ルシファーにも齧らせながらアイスを食べ切った。ヤンに乗ったルキフェルが、上でひとつ欠伸をする。


 のどかな時間は、街へしっかりお金を落としながら平和に過ぎていく。キマリスは予約しておいたお昼ご飯を受け取っていた。天気がいいので、門を出て森へ向かってもいいだろう。大量のお弁当には、サービス分として注文以上の追加もあった。


「リリス様、大きなシャボン玉セットを買いましたの。どこかで遊びましょう」


「シャボン玉の中に入って遊べそうですわ」


「ほんと! 凄いわ。遊んでもいい? ルシファー」


 興奮したリリスの促しに、ルシファーは彼女を下ろした。


「そうだな。街中で飛ばすと迷惑だから、門の近くはどうだ? 風向きを確認して外へ飛ぶようにすれば、迷惑にならないだろう」


 いざとなれば風を起こして飛ばせばいい。その提案にリリスは手を叩いて喜ぶ。集まった巨人族の子供達を連れて、昼食を運ぶキマリスが合流した。


「よし。門の辺りで遊んでから、外で昼食にするか」


「キマリス殿、我が荷を運びますぞ」


 紳士的なヤンの申し出を1度断ったキマリスだが、リリスやルシファーにも促されて袋を渡した。器用に持ち手部分を咥えて運ぶヤンは、立派な買い物犬だ。得意げに運ぶ姿が、何とも切ない。アベルが「フェンリルって、もっと崇高なイメージだったのに」と苦笑いした。


「魔王陛下の護衛よ、威厳あるじゃない」


 言い返したルーサルカに、両手を上げて「ごめん、降参」とアベルはすぐに折れた。気の強い彼女と相性が良さそうだ。引くべきところで引けるのは、ポイントが高かった。今まで優柔不断な男だと思っていた認識を改めた方がよさそうだ。


 門が見えて、手前の大きな広場に子供達が駆け出した。巨人達が走り回ると、子供といえど迫力がある。地響きを立てて走り回る子供達が、ルーシアの取り出したシャボンの道具で遊び始める。


 大きな輪の中にルーシアが立つと、一際大きな体の子が輪を持ち上げた。ぶわっと虹色の筒が出来て、ルーシアが中に閉じ込められる。ぱちんと弾けると頭の上に、飛沫が散った。それを結界で防ぎながら、ルーシアがリリスの手を取る。次は一緒に入って、シャボンの筒を作った。


 楽しい時間を過ごし、子供達に道具をプレゼントして別れる。空を見ると、少し天気が悪い。晴れた空は雲が覆い始めていた。雨は降らないだろうが、門の外は諦めた方が良さそうだ。


「仕方ない、この辺にテーブルを出して食べるか」


「私、ピクニックみたいにシートがいいわ」


「我がソファになりますぞ」


 リリスの要望と、ヤンの申し出を受けてシートを敷いた。くるんと丸まった毛皮の上に、靴を脱いだ魔王と魔王妃が乗り、大公女達も続く。ヤンの尻に寄りかかる形で、キマリスも落ち着いた。


「これは……」


「おっきいわね」


 開いたお弁当は……抱き抱えるサイズのおにぎりと唐揚げだった。

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