1281. 余った手は魔王でも使え
人数が減ったもの、長寿の神龍は子育ての経験者が多い。竜族からも数人借りられることになった。竜人族は、エルフ同様にベビーラッシュで、人手が足りない。仕方なく竜族から借りた育児経験者を竜人族に回した。
種族が近い方が、育て方や慣習の面から都合がいい。神龍以外に協力を申し出たのは、虹蛇だった。問題ないのかと尋ねたところ、彼らは卵生なので孵化する時期を調整できるらしい。ちょうど産卵からの子育てが一段落した時期で、これから数十年は手が空いているという。
希少な治癒能力を持つ虹蛇は、人族に狙われやすい。以前も攻撃されて、子が奪われ母蛇が殺され掛けた。だが人族がほぼ壊滅したことで、辺境だったエルフの地域でも安全が確保できる。人族との緩衝地帯の森は魔の森に飲まれ、海岸付近まで広がった。そのため、辺境ではなくなっている。
「虹蛇が2匹、神龍は4匹……」
意図したわけではないが、長細い種族ばかりになってしまった。夜は吸血種の蝙蝠が面倒を見てくれる。真っ暗な状況でも、ソナー機能で赤子の状態を監視できる彼らは打って付けだった。長寿の種族ばかりで纏めた養育係を引き連れ、ルシファーは転移でエルフの集落へ戻った。
「連れてきたぞ!!」
「ありがとうございます」
「助かります」
口々に礼を言いながら、虹蛇や神龍の若者を中に招くエルフ達は、目の下に隈が出来ていた。ほぼ休みなしの状態だったらしい。気の毒なので、回復の魔法を掛けておく。
元気一杯の赤子は、一際大きなツリーハウスの根本にいた。というのも、過去に赤子の落下死亡事故が発生したので、ツリーハウス内での養育は諦めたらしい。ある程度まで成長すれば、ツリーハウスに引っ越すのだが。これだけ多くの赤子が生まれたのは初めてで、事前に危険を避ける判断は正しい。
好き勝手歩き回る赤子は、這い這いが始まっていた。つまりここから目が離せない時期だ。魔物が近づかないよう、エルフの見回りの他に魔狼が協力していると聞いた。近隣種族とのトラブルもなく、安心して子育てが出来そうだ。
蔓を編んで作った柵が、外へ向かう赤子を受け止め、中に押し戻す。生きた蔓をそのまま活用したらしく、所々花も咲いていた。決して言葉にしないが、子犬の入った籠のようだ。薄い緑の髪が特徴的な赤子は、虹蛇にすぐ懐きよじ登って遊び始めた。
神龍族は人化して、ミルクの準備や入浴の介助を行う。手分けしたことで、虹蛇達は赤子の見守りに専念できそうだった。
「何かあれば、すぐ魔王城へ連絡してくれ」
遠慮しないよう言い聞かせ、ふと気づく。もしかして他にもベビーラッシュの種族がいたら? 調査させる必要があるかも知れない。竜人族も急に出産が増えたと聞いた。森の魔力が溢れたことと関係ある気がする。
「保育園は増設するとして……転移魔法陣の設置を急がせよう」
保育園へ通うにしても、緊急事態で治癒の出来る者を頼るにしても、魔法陣があれば便利だ。赤子はすぐに体調を崩す生き物だった。弱い分だけ保護しなくてはならない。大急ぎで草案を纏めて、アスタロトの机に送りつけた。
長い純白の髪を引っ張って口に運ぶ赤子を抱き上げる。なんだか懐かしい。リリスもよく髪を口に入れたな。あの子があんなに大きくなって、もうすぐお嫁さんになるのだ。必死で勉強しているだろうリリスを思い浮かべながら、ルシファーは時間が許す限り赤子の世話を手伝った。
手際の良すぎる魔王に「そういえば、リリス様のお世話をしていたんですよね」と笑いながら、オレリアがオムツを手渡した。余った手は魔王でも使え。
「手が足りないのでお願いします」
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