1058. 噂ルート解明始まる?
コカトリスの唐揚げが大量に用意され、柚子ドレッシング付きで配られることとなった。城下町であるダークプレイスにも情報が流れ、イフリートは厨房から出て門の前で唐揚げを始める。
焼肉大会で使った鉄板を加工し、巨大な揚げ鍋を作ったルキフェルが苦笑いする。
「それにしても情報早いね」
「噂に飢えてるからな」
いつも魔王城の噂をいち早く流すダークプレイスの民は、元気一杯に唐揚げ目指して丘を登った。そんな彼らを観察するアスタロトが、何やら記録を始める。
「何してるんだ?」
「今回の情報が漏れた先と、誰が早く来たか。種族ごとの足の速さなどを計算に入れて……城の噂が流れるルートを解明しようと思いまして」
機嫌のいいアスタロトの言葉に、ルシファーは心の中で祈った。みんな、無事に逃げ切ってくれ。リリスの祝いで、彼らの噂ルートが解明されたら被害者がでそうだ。
「大ごとになって恥ずかしいわ」
「よく分からんが、リリス様のお祝いだと聞いたぞ」
照れるリリスの前で、魔王城の建築作業に携わるドワーフが宴会を始める。各自、酒瓶片手に唐揚げを頬張り始めた。そうなれば、周囲も似たようなものだ。収納から取り出した酒や食べ物を並べ始め、やがて屋台も現れた。
「いつもながら……見事だな」
祭り会場と化した城門前で、リリスはヤンの上に移動させられる。丸くなったヤンに、運ばれてきた唐揚げを食べさせるのは彼女の役目だ。そうして仕事を与えて、温かな毛皮に包まれる状況を不自然なく作り上げた。
当然リリスの身体が冷えないよう、ルシファーの結界と魔力が注がれている。リリスから流れ出る血を処理する魔法陣は、現在ルシファーの魔力で補われていた。魔力を封じたリリスでは使えない。
封印を解除するか迷ったルシファーに、リリスが自ら提案したのだ。一緒にいればいい、と。そのため魔法陣を少し書き換え、魔力を注ぐ者と適用される者を分けた。現時点で問題なく発動している。
「来月までに魔石を用意しないと」
万が一にも留守にした時、不便だろう。それに開発した魔法陣で魔石付きの魔道具を作れば、魔力量が少ない種族の女性も助かる。一石二鳥の開発は、大急ぎで進められることになった。
リリスの体調に関する話はすでに大公達に伝わり、誰もがお祝いの言葉をくれた。それはリリスにとって嬉しいことだ。ルシファーの子を産んでもいいと、彼らが認めてくれたのと同じだった。
「肩が冷える。これを……、腹は痛くないか?」
「腰が痛いの」
上着を羽織らせたルシファーは、腰が痛いと言われて困った顔をする。人前でリリスの腰をさすったら、彼女が恥ずかしがるだろう。治癒魔法を使うと、せっかく流れた胎内のあれこれが戻ってしまうと注意されたため、下手に魔法が使えない。ちなみにルシファーは、胎内のあれこれが分からないままだった。
「楽な姿勢があれば、そうだ! 膝に乗って寄りかかってみたらどうか」
横抱きにして、リリスの上に温かい毛布を乗せる。くるりと包んで隙間風を防ぎながら、様子を伺う。何度か角度を変えたところ、楽な姿勢を見つけたリリスが安堵の息をついた。
「ここがいいわ」
「わかった」
微笑んで、リリスが休めるように背中を撫でる。足を抱えるように丸くなった胎児の姿勢が楽だと言われた。人により違いはあるらしいが、リリスが楽ならいい。穏やかに微笑む魔王と、腕の中で安らぐお姫様の姿に、騒ぐ民は少しだけ距離を空けた。
その後、大量の唐揚げが運ばれるとリリスは身を起こし、手ずからヤンの口に放り投げた。この場で揚げられたコカトリスは30匹分。柚子の香りがする肉は魔族の腹にすべて収まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます