1352. ちょっと庇いきれなかった
すまん、アドキス。それは庇ってやれない。
室内でアムドゥスキアスがやらかした騒動を聞いて、額を押さえた。気の毒そうな顔をするが、他の婚約者達も庇いきれないと溜め息を吐いた。
少女達の説明によれば、このホールを使って彼女達は魔法による催し物の練習をしていた。これは当日まで秘密にする予定で、催し物の時間だけ確保している。内容は進行担当のベールにも話していなかった。その練習風景を覗きに入り込み、翡翠竜は捕まったのだ。怒られるのも当然だった。どうして結婚式まで待てないのか。
「わかった、きちんと反省させよう」
「お願いします。びしっとやっつけてください」
反省させるのであって、戦うわけじゃないぞ? かつて戦って魔王城を半壊させたからな。翡翠竜と戦うと誤解されたら、オレも一緒に遠くへ捨てられそうだ。ベールもルキフェルも、あのベルゼビュートでさえ準備に飛び回っている。もうすぐアスタロトも休暇という名の強制収容から戻ってくるのだ。下手に騒ぎを起こしたら、結婚式当日まで棺に封印されそうな気がした。
たぶん、気のせいじゃない。
「善処する」
曖昧な返答と笑顔で誤魔化した。この部屋に集まっていたのは、少女達とその婚約者だ。一番最後に顔を出したのがルシファーだった。ルーシアはジンと腕を組み、シトリーはグシオンと指先を絡めて繋ぐ。ルーサルカは触れるかどうかの微妙な距離を空けてアベルと並び、レライエはむっとした顔で腕を組んだ。
リリスが腕に絡みつき、愛らしい仕草に頬が緩む。
「ダンスの練習か?」
「違うのよ。ルシファー達と一緒に、何か披露できないかと思って」
漠然とした表現に首を傾げる。披露するのなら、観客がいるのだろう。もしかして結婚式で何か劇でもしたいのか。
「前に見た花火みたいに、誰もが楽しめる魔法ってないかしら」
「ふむ……昼か夜かで変わるが、夜ならそれぞれの特技を使って花火を演出することも可能だな」
「どうしましょう」
ルーサルカが考え込む。アベルは唸り、しばらくして思いついたらしい。
「全員でやる必要ないんじゃないっすか」
「アベル、普通に話せ。おかしくなってるぞ」
敬語を混ぜようと中途半端に頑張った結果、何を言いたいのか伝わらない言語になってるぞ。指摘したルシファーに肩をすくめ、口調を直した。
「えっと、それぞれに時間を変えて演出したらいいんですよ。ルシファー様達を最後にして、俺らがそれぞれにカップルで考えた演出をする。どうですか」
「その方が無難か」
全員の能力も魔力量も違いすぎる。ルーシアの水とグシオンの炎は正反対だし、リリスの得意な雷は危険だった。婚約者同士なら催し物の相談もしやすい。互いの能力を把握するのも、夫婦円満の秘訣だろう。
少し扉の方を気にするレライエに、全員が気づいていた。あのアベルさえ「どうします?」と視線を送ってくるのに、レライエは知らん顔をする。意地っ張りなのだろうが、ほどほどにしないと拗らせてしまうか。年長者が助け舟を出すべきだ。
「レライエ、不満はあるだろうが……アドキスと相談しないと決まらないぞ」
だから室内に入れて、相手をしてやれ。魔王としての言葉に、大公女である彼女は逆らえない。こうして命令のような形を取れば、仕方なく許したと体面も立つだろう。リリスがぐっとオレの腕を掴んで笑う。一礼して扉の方へ向かうレライエは素早かった。そんなに気になるなら、もっと早く許してやればいいものを。
皆で気づかれないように目配せしあい、微笑ましい気分で見守る。抱っこされた翡翠竜は、蚊の鳴くような細い声で全員に謝った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます