127. 最上級のものを用意しよう
ドレスのデザイン画を並べて唸る。個人的には白いドレスにしたいのだが、魔王の正装が白なので可能な限り避けましょうと注意された。黒髪が映える色……ピンク、いや春だからクリーム色や若草色も明るくていい。水色は夏のイメージだからな。
真剣な眼差しで布のサンプルに手を伸ばす。ヤンに抱きつくように眠っている幼女の肌に乗せて、顔映りをチェックして戻した。次々と触れて肌触りと艶を確認していると、後ろから頭を叩かれた。
「ルシファー様、いい加減になさってください。早く決めないと、次はジュエリー類、靴、マントも待っているんですから」
「分かってる。今回はピンクだ! 淡い色で、こんな感じの。レースとフリルはふんだんに使え。歩かせずに抱いていくから、動きやすさは不要だ」
「はいっ」
「デザインはこれ」
指差したデザイン画を拾い上げたアラクネが、小躍りしながら帰っていく。織物が得意な女系種族だが、見た目が大きな蜘蛛なので人族に毛嫌いされ討伐されかけていた。気の毒なので保護したルシファーへ、数百年前の恩を返すのだと今回は特に力が入っている。
次に待ち構えるジュエリー担当のスプリガンを手招きした。小人族系で小柄だが、手先の器用さは天下一品だ。ジュエリーの細工などを専門に生計を立てる一族だった。
「デザインは魔王陛下がお使いの紋章を中心に、小さな花をちりばめて姫様らしさを表現しました。愛らしく仕上がると思います。白い肌に映えるよう、ミスリルの地金をご用意しました」
ミスリル製の銀色の細工物をサンプルとして示され、
鳳凰に似た鳥が羽ばたくデザインは、魔王であるルシファーの紋章と定められていた。他の種族が使うことを許されない紋章に豪華さと可憐さを両立させ、5枚花弁の小さな花の散る飾りは見事の一言に尽きる。満足そうに頷いて一発OKを出す。
「よし、宝石類は最上級のものを用意しよう」
「かしこまりました」
用意させようではなく、自分の手持ちから出すことにしたルシファーは頬を緩める。かつて地底を支配したエルダードワーフからの戦利品を、大量にストックしてあった。自らを飾り立てることに興味がないルシファーの財産として、どこぞの亜空間に放り込んだはず。
素早い決断に満足そうなアスタロトが、ちらりと時計を確認した。予定より少し遅れている。
「パパぁ」
抱っこを強請るリリスを膝の上に乗せると、首に手を回して抱きついてきた。膝の上に跨るリリスの背中をとんとん叩いてあやしながら、スプリガンの注文書に了承のサインをする。
「次は?」
「靴担当の
猫耳が可愛い少女が進み出た。獣耳や尻尾がある種族は獣人族が多いのだが、ケットシーは妖精に分類される。小さなガラス細工のビーズが縫い付けられた煌びやかな靴を2~3足取り出した。
「サイズの計測は明日、ドレスと一緒に行います。本日はビーズの種類とお色だけ決めていただきたいのですわ」
「ドレスが桜色の淡いピンクだ。濃い色ではどうか?」
ルシファーの提案に、少し考えたケットシーが提案する。
「ジュエリーやティアラが銀色系でしたら、銀に輝くお靴はいかがでしょう? こちらは新作で銀細工のビーズですの」
先に出した靴と違う靴を引っ張り出す。サンプル用らしく、途中で金色に色を変えるビーズはすべて金属製らしい。きらきらと美しい靴は、細かな色違いのグラデーションになっていた。
「よし、新作でいこう!」
「ドレス担当のアラクネとデザインを打ち合わせます」
一礼して下がる猫耳に、リリスが気付いて瞬きをする。じーっと見つめた後、ルシファーの顔を見上げた。
「パパ、猫ちゃんのお耳ほしい」
「そうか? それじゃティアラだけじゃなくて、猫耳も注文してやろうな」
アラクネあたりに頼めばカチューシャ型の猫耳も作れるだろう。ルシファーはでれでれと甘い顔で、特注品を注文する。リリスの黒髪に合わせて、黒猫……いや、白猫も捨てがたい。いっそドレスに合わせてピンクの耳もいい。うっとり考えているルシファーの頬は緩みっぱなしだった。
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