1129. 誘拐の理由をさぐれ

 レラジェの行き先が漏れたのは、予想外の場所からだった。魔王城から発注された赤子の用品一式リストだ。各商人へ回され、手分けして在庫からベビーベッドや服、おしゃぶり、おむつに至るまで揃えられた。


 その際に商人達に口止めが行き届いていなかったのだ。裏を返せば、レラジェの存在を秘密にしなければならないと考えた者が少なかった。リリスの色を持つルシファーの顔の子供……だが2人の子ではない。この一点で情報はダダ漏れだった。


 反省するアスタロトとベールの横で、疲れ切ったルシファーはソファに寄りかかっていた。大量の魔力を放出して戻ったのだが、ルキフェルはベールの膝に頭を預けて熟睡中だ。元気よく攻撃に魔力を消費し、すぐさま魔の森の復元用に魔力を吸い取られた。ルキフェルのダメージは大きい。


「それで、ルキフェルが捕まえたドラゴンはどうした?」


 アスタロト達がここにいるなら、拷問はないだろう。この2人なら連絡を忘れたと嘯いてやりかねない。その意味では信用がない2人に問いかけた。


「牢にいますよ」


 普段と違い、省きすぎた説明に嫌な予感がした。


「城門の地下牢だよな?」


「なぜ確認をなさるのですか」


 部下を信じないなど、悲しいですね。そんな口調で嘆いてみせるが、答えをはぐらかした事にルシファーは気づいていた。睨みつけて待てば、諦めた様子でアスタロトが白状した。


「私の城です」


「許可して移送しました」


 ベールまでグルか。眉を寄せて不機嫌さを露わにするルシファーへ、アスタロトが苦笑いして事情を話し始めた。


「魔王城の地下でもいいですが、もっと簡単に奪還できそうな場所の方が誘い出せるでしょう。罠も大量に仕掛けることが可能です」


「……お前の罠か」


 それは絶対にかかりたくない。本音を滲ませたルシファーの声に、ベールがくすくすと笑った。養い子の水色の髪を梳きながら種明かしをする。


「実は、ドラゴンの背に誰かが乗っていた目撃報告がありまして。ルキフェルに見つかる前に、行動を共にした者が共犯者の可能性もあります。その者がドラゴンを助けに来るかどうか、試しているのです」


 残虐で容赦のない吸血鬼王――もっとも冷酷な大公と揶揄されるアスタロトの城に、共犯者がいる。拷問が行われ、捕まったドラゴンが何を喋るか。さぞ不安になるだろう。そんな中、アスタロト自身が城を離れたと知れば……取り返そうと動くはずだった。


 誘い出すための餌として、ドラゴンを城の地下牢に繋いだ。逃さないための術は幾重にも施した上で、鎖に繋いで1人にした。そこまで聞いて、ルシファーは頭を抱える。


「今回の動機はまだわからないのか?」


「共犯者の有無を含め、何も喋りませんでした」


 すでに一通りの尋問は終わっていた。それで何も掴めないから、アスタロト達も苛立っているのだろう。ルキフェルも心当たりに声を掛けたら、攻撃して逃げたので追って捕まえたらしい。共犯者が捕まるなり、捕まえたドラゴンが話すまで持ち越しだった。


「レラジェを狙ったとしたら、目的は何があるか」


 ルシファーやリリスに対する反逆の手札、取引の材料、魔力の豊富な子供の誘拐……思いつく限りを並べていると、欠伸をしたルキフェルが身を起こした。


「僕は嫌がらせや仕返しの類だと思うよ」


 半分覚醒して聞いていたらしく、あふっと大きな息を吐き出して呟いた。


「反逆罪の可能性が高いと考えていました」


 ベールの指摘ももっともだ。そこでアスタロトがにっこり笑って、思わぬ方向から切り込んだ。


「ただ、子供が欲しかったのではありませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る