1318. 迷探偵同士で脅迫文の推察
異世界人を戻す方法探しをルキフェルに丸投げしたら、書類に囲まれた。肩を落とすルシファーだが、すぐに思い出す。
「脅迫文の主を探さないと!」
「それならもう見当が付きました」
あっさりアスタロトに切り捨てられた。逃げ道を塞がれたルシファーへ、淡々と状況が告げられる。
「まず魔王妃殿下への脅迫文ですが、城下町に住む獣人女性が出した手紙です。以前に街で新作についてリリス様と話が盛り上がった彼女は、謎かけのつもりで手紙を出しました。それが脅迫文と勘違いされたようですね」
「はぁ……」
なんとはた迷惑な。だがリリスが城下町へ本を買い求めにいく一番の理由は、同じファン同士で話がしたいからだ。取り寄せればいいと言ったら、ズルはいけないと返された。この辺の事情も絡んでいるのだろう。同じ趣味を持つ魔族との交流を深めたかったらしい。
うっかり封筒の裏に差出人を書き忘れたため、余計に勘違いを増長させる結果となった。
「今回は注意に留めました」
次は気をつけるように叱られた程度だ。罪としてはかなり軽い。本当に殺害予告や脅迫なら、相当酷い目に遭っただろうが。リリスは隣で話を聞きながら、書類に印章を押し付けた。
「そうだったのね。覚えてるわ、カバのおばさんだったかしら」
「象ですね」
ちょっと違った。本人に聞かれたら全然違うと訂正されそうだが、幸いこの場にいるのは3人だけ。肩をすくめて終わりだった。アスタロトが時計に目を向け、視線を下に落とした。
「リリス様、ルカ達が下で待っていますよ。ドレスの装飾品の打ち合わせでしたか」
「わかったわ。ちょっと行ってくるわね、ルシファー」
「気をつけてな」
頬にちゅっとキスをして駆けていくリリスが部屋を出ると、扉の前にいたイポスが一礼して従った。のそりとヤンが扉の前に移動する。ルシファーの護衛は現在、ヤンの仕事だった。
「それで? リリスを追い出してする話があるのか?」
アスタロトの様子から、リリスに聞かせたくない話があるようだと感じた。その判断は当たりだったらしい。机に手をつき、身を乗り出したアスタロトが報告書を取り出した。
「こちらをご覧ください。保育園へ送られた脅迫文です。複数ありますが、同じ筆跡であり犯人は同じでしょう。問題は……この内容です」
魔王軍に提出され、その後ベールを経てアスタロトの手に渡った脅迫文は3枚。すべてに「預かった子を傷つけられたくなければ、金品を用意しろ」と書かれていた。文章は僅かに違うものの、内容は統一されている。
「金目的か」
「気になる部分があります。預かった子、と限定した理由は何でしょうか」
「保育園だから、預かった子しかいな……いよな?」
保育園に勤務する者が我が子を連れて通うことも可能だが、そんな事例は稀だ。通常は誰かから預かった子しかいなかった。
「預かった子しかいない場所に、どうしてわざわざ預かったことを強調したのか。ただの装飾文なのか、気になりませんか」
そう尋ね直されると、確かに奇妙な気がした。子供を傷つけるぞ、だけで意味が通じるのだ。不要な文字を付け加えるからには、そこに意味がある可能性は否定できない。
「子どもを預けられない親はいるか?」
逆に考えたら、答えが出るかも知れない。ルシファーがそう呟いたとき、ピヨが勢いよく窓を突き破った。割れたガラスが飛び散り、アスタロトが顔を引き攣らせる。ガラス片は結界で弾いて無傷のルシファーが、額を押さえため息を吐いた。
「ママは?」
「……ピヨ、もう庇いきれないぞ」
ルシファーの声に重ねて、アスタロトが美しすぎて恐ろしい笑みを浮かべながら警告する。
「何度目ですか、ピヨ。こちらへ来なさい」
怯えるヒナは全力で外へ飛び出し、追いかけてアスタロトが消えた。ここからは見えないが、城門方面で悲鳴が上がったので捕まったようだ。
「ったく」
困った奴らだ。窓に復元魔法を適用しようとして、ふと手を止めた。外を走る子に見覚えがある。首を傾げてから、ぽんと手を叩いた。
「人狼の子、アミーだ」
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