1349. 違って当たり前、誇っていいわ
捕まえた鳥は魔力ありで、ピヨやアラエル、ヤンなどの魔獣種と会話が可能だった。魔族なのだが、仲間が見当たらない。種族登録を一時見送りとした。新種登録には、最低でも同種族の個体2匹以上の確認が必要なのだ。
ピヨと意気投合したため、葡萄の代金分を働かせる意味で魔王城の城門で見張りをしている。名目上の話なので、実際はただピヨの遊び相手になっただけだ。今日もあれこれと悪戯をしでかし、アラエルに追い回されているようだった。
「新種が増えていますが、異常事態の前触れではないのでしょうか」
「お母さんが眠る前だからよ」
ベールの心配そうな呟きに、リリスはけろりと返した。魔の森は1万年単位で活動が活発になったり、眠りに入って鈍くなる。今回はもっと早く眠りに入る筈が、人族の騒動がありリリスを産んだ影響もあって時期が遅れていた。
「眠ってしまえば新種は出て来なくなるもの」
ルキフェルはリリスの言葉を聞きながら、手元に取り寄せた魔王史を開く。2万年程前の記録をさっと読み返し、その通りと頷いた。
「確かに新種登録の時期が偏ってるね」
前回の魔の森の眠りは、リリスの説明によれば2万年前。目覚めた時にルキフェルが生まれたので、その頃に新種登録が偏っていた。魔の森が目覚めて活発な時期に、新たな種族や先祖返りが発生するらしい。
「周期が分かっているなら問題ないな。安心して休んで貰えばいい」
ルシファーがにっこり笑うと、リリスも微笑み返した。ルシファーのことが大好きな魔の森は、迷惑をかけないよう調整していたのだろう。ここ最近、人族が召喚を繰り返し、世界の境目が曖昧になった。修復に時間がかかるし、大量の魔力も回収する必要が出てくる。
人族を排除するか最後まで迷ったのも、ルシファーが人族容認派だったから。そうでなければ、魔の森によって人族は完全滅亡させられていただろう。
「ルシファーが理解して寄り添ってくれたから、お母さんは嬉しいのよ。今回はゆっくりいい夢が見られそうだもの」
リリスはくすくす笑いながら、森がひた隠しにしてきた事実を話し始めた。世界が不安定になっても、ルシファーが望むようにしたいと無理を重ねてきた。今回も眠る時期がずれた理由が、ルシファーに人族排除の決断をさせたくなかったから、なのだ。
「ルシファーは気にしちゃうでしょ? アシュタが代わりに悪者ぶってたのに、全部話を潰しちゃうんだもの」
ある意味、魔の森の意向に最も近い位置にいたのが、アスタロト大公だった。あれだけ叱られてもリリスがアスタロトに好意的だった理由に気づき、ルシファーは苦笑いして背を逸らしソファに寄りかかった。
「なるほど。そういう事情か」
「ずっと人族は悪さばかりしてきたわ。森にとってタチの悪い害虫なのよ」
「それはわかる」
ルキフェルが菓子を摘みながら同意する。思わぬ暴露に驚いた顔をしながら、ベールがお茶のお代わりを注いだ。
「各種族の特徴を残す大公の方が、森の意思に敏感なのか」
ルシファーが後悔を滲ませた声を上げると、リリスはこてりと首を傾げた。
「ルシファーはお母さんの成功作よ。だから森の意思から切り離されているの。考えが違って当たり前だし、誇って欲しいわ」
思わぬ言葉に、魔王と大公達は顔を見合わせる。魔の森の意向に自然と従うのが、森の住人達だと思ってきた。だが自分に従うだけの存在に違和感を覚えた森は、ルシファーを生み出す。彼女に従うことより、自らの意思で判断ができる存在を……誰よりも愛した。
話し終えたリリスは窓の外へ目を向ける。自然と3人も釣られた。ざわざわと心地よい音を立てて揺れる森の緑が、今日は一際鮮やかに感じられる。母である魔の森がいつもより身近に思えた。
「オレは生まれてよかったと、感謝してるよ」
ぽつりと呟いたルシファーの声に、同意が複数重なった。
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