1228. 精霊女王の長所と短所
「ベルゼ姉さんにいい人いないかしら」
眠ったベルゼビュートを置いて出てきたリリスの呟きに、ルシファーも唸る。何度も紹介したのだが、毎回断られてきた。中には婚約まで漕ぎつけたのに別の女を選んで結婚した者もいる。
「ベルゼビュートの良さを分かってくれる男がいればいいが」
なかなか伝わらない。伝わると今度は友人になってしまうのだ。
「性格は素直で尽くすタイプだし、面倒見もいい。他者を見下す奴じゃないし、身だしなみにも気を使うのにモテないんだ」
不思議である。廊下を歩きながらルシファーが首を傾げる横で、リリスも指折り数えた。
「顔は綺麗だし、大公でお金もある。胸も立派だけど、別に太ってるわけじゃないわ。それに姉さんは優しいもの」
「多少露出が激しいが、そういう女性が好きな男もいる筈なんだ」
うーんと唸る。やはり大公という地位がいけないのか。精霊女王として君臨する彼女に対し遠慮したり、高嶺の花と最初から諦められている可能性も高かった。
「今さら、大公を辞めてまで結婚させるのも」
「そんな男にベルゼ姉さんは渡せないわ! 絶対に不幸になるじゃない」
リリスの言い分に頷きながら、ベルゼビュートの欠点を思い浮かべる。
「外から見て、賭け事が趣味というのは危険な気がするな。ただ金貨1枚程度だから報酬をつぎ込む額ではないし、経費を使い込んだこともない」
やっぱり大きな欠点が見つからない。だがルシファー自身もなぜか彼女と結婚する気はなく、以前に魔王妃が必要だから一時的に結婚しろと言われた時も断った。あれはアスタロトの提案だったか? 変な女に引っ掛かる前に、手近な安全牌で手を打てと言う意味だろう。今のリリスに知られるのは危険な記憶だった。
ベルゼビュートの地位が釣り合う相手となれば、魔王ルシファーか3人の大公くらいだ。18人も妻のいるアスタロトが一度もベルゼビュートを女性扱いしなかった時点で、ある意味答えは出ているのだろう。
「ねえ、ベルゼ姉さんはどうして温泉にいたの?」
「……そういえば、祠にいると思ったから転移したんだったな」
祠にいると感知し、そこなら問題ないと踏んで転移した。なのに魔王所有の温泉屋敷の露天風呂に浮かんでいたのだ。すっぽんぽんだったので、話が逸れたが……おかしい。
「起きたらベルゼに聞いてみよう」
「そうね。ここの温泉街のお饅頭が食べたいわ」
「買いに行こうか」
頷くリリスを伴い、屋敷の門をくぐる。この屋敷は、温泉地を管理するデカラビア子爵家が定期的に掃除を行うため、問題なく使用できた。特に準備する必要もないので、お茶菓子を買いに出られる。手を繋いで歩き始め、遠いので途中を転移で省略した。
アスタロトが留守を預かってくれるのは数日、その間出来るだけ羽を伸ばすつもりだ。純白の髪で正体がバレるルシファーは、街に着くなり注目の的だった。腕を組んだリリスは笑顔を振りまき、手を振ってご機嫌だ。
「あ、これがいいわ」
「ベルゼの分も買って帰ろう。それと、一応アスタロトへの土産も」
「ロキちゃんとベルちゃんが可哀想だわ」
「じゃあ、大公女達にも必要だろう。ヤンはどうする?」
話し合いながら、温泉まんじゅうを大量買いした。化粧箱で20箱ほど購入し、まとめて収納へ放り込む。そこから温泉ガラスなる青いガラスに興味を持ったリリスに付きあい、グラスやらアクセサリーを見て回った。もちろん、大公女達への土産とともに大量購入する。
デカラビア子爵家のグシオンが駆け付けたので、彼に食事の準備を依頼した。温泉地ならではの料理が食べたいとリクエストしたリリスは、温泉卵を大切そうに抱える。ダチョウの卵を温泉卵にしたらしい。なお、ダチョウと呼んでいるが動物ではなく魔獣である。翼はあるが飛べないため獣扱いなのだ。
卵を大量に産むダチョウは、無精卵を種族の特産物として販売していた。温かい地域を好むので、温泉地に住み着いている。卵を抱えるリリスの姿に頬を緩めながら、ルシファーは彼女に似合いそうな簪をこっそり購入した。
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