1064. ショック療法の効果は
イザヤとアベル、隣室で覗かれた獣人を並べる。それから4人の女性が向かい合う形で立った。
ルキフェルへ通信で伝えた通り、魅力的な女性を選ばせる作戦だ。ここで皆がアンナ以外を選べばいい。痩せることへの執念は、愛する男を繋ぎ止めたい恋心から発生していた。ならば痩せすぎることで嫌われる、と強迫観念をすり替えてしまえばいい。
太ったら嫌われるに、痩せすぎても嫌われるを追加するのだ。乱暴で荒療治だが、ルキフェルはあっさり了承した。アンナが食べなければいくら治癒を行っても追いつかない上、ルキフェルの好きな実験の結果も狂ってしまう。
普通に説得して聞いてくれたら良かったのだが、アンナの思い込みは頑固だった。ショック療法に切り替えた状況も盗聴していたルキフェルは、アベルやイザヤによく言い聞かせる。これは彼女のためだと。悲壮な表情で頷いたイザヤに対し、アベルは飄々としていた。
「一番魅力的な女性は誰?」
当然、あたくしよね! そんな自信満々の問いかけに、一番早く反応したのはアベルだった。
「曲線美は、ベルゼビュート大公様かな。でも愛しくて大切にしたいのはルカ。その尻尾も筋肉質な足やしっかりした尻も大好き」
「えっち! いつもどこをみてるのよ!」
ちゃんと選んだのに、婚約者に罵倒されてしまった。アベルがしゅんと肩を落とす。言葉選びを間違えた自覚はない。ふかふかの尻尾はいつでも触っていたいし、俊敏さを誇る狐半獣人のルーサルカの筋肉質な足は羨ましい。できればスカートより、ぴったりしたパンツルックを希望する。その意味で、先日の狩りはお礼を言いたいご馳走だった。
ストレートに伝えすぎ撃沈したアベルは気づいていない。ルーサルカ自慢の尻尾が、嬉しさに全力で振られていたことを――。
「惚気は後にしてちょうだい」
曲線美……と注釈付きだが、自分も選ばれたベルゼビュートは得意げに胸の谷間を見せつけた。すると、正面の獣人が股間を押さえてもじもじする。
「お、おれは……ベルゼビュート大公閣下が……その、すごく綺麗で魅力的だと……あと、赤毛の方の筋肉もいい」
見られた事件もあり、かなり意識しているようだ。性的に興奮している様子で、忙しなく尻尾や耳が動いていた。ぺろりと舌舐めずりで挑発するベルゼビュートを前に、彼は陥落寸前だった。
ここでレライエ1票、ルーサルカ1票、ベルゼビュート2票となった。仕掛けなので、当然裏で根回しと不正が横行している。そんな事情を知らないアンナは、上目遣いに兄を見つめた。
イザヤは私を選んでくれる。だから平気。そう自分を誤魔化す。この時点で、アンナはかなり揺らいでいた。脳裏を過ったのは、テレビで観た移民の女性だ。痩せ過ぎて骨が浮き出た可哀想な姿だった。私は違うわ、そう思うのに、もしかしたら? と不安になる。
アンナと目を合わせるイザヤは、ひとつ深呼吸した。
「愛しているのはアンナだ。だが、美しいと思う肉体はベルゼビュート様。骨の浮いた身体は嫌だ」
本音を飾らずに口にした。これは妹のためだ。アンナは俺の言葉が届かないほど頑なになっている。凝り固まった考え方を砕くには、一度激しい衝撃を与える必要があった。
頼む、気づいてくれ。
イザヤは目を逸らさない。痩せた頬を伝うアンナの涙を目に焼き付けた。
「お、兄ちゃん。私……」
「頼むから、こうやって包める頬でいてくれ」
付け加えたのは、両手を柔らかく丸める仕草だ。両方の頬を包むように差し出した手は、ふっくらと丸みを帯びた形だった。キスをする兄が、いつも両手で頬を包んでくれる。その仕草を思い出して、アンナは自分の愚かさを悟った。
「私が、太っても?」
「可愛いよ、どんなお前でも受け入れる。そうだな、今の服が入らなくなったら、一緒に痩せる方法を考えようか」
少しダブついた服を見下ろし、アンナは兄の提案に頷いた。
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