1357. 赤裸々すぎる情報交換――あと6日

 ドレスの最終調整を終えた少女達は盛り上がっていた。というのも、ドレスに合わせて髪飾りや化粧の相談を始めたのだ。当然男性陣は合流できず、際どい話も盛り上がる。


「アドキスって人化できるの?」


「わからないけど、私が竜化できるから」


「それなら問題ないわね」


 初夜のあれこれで、あけすけに話が飛び交う。男性達がいたら逆に向こうが赤面しそうだ。そういう面で、女性のメンタルの方が強いのかも知れない。未来の妻であり母になる彼女達は、軽食を摘まみながら机に身を乗り出した。


「リリス様はいつも魔王陛下とご一緒だから、今更ですわね」


「緊張しなくて済みそう」


 ルーシアとシトリーの会話に、リリスが大きな溜め息を吐いた。


「そうなんだけど、逆よ。毎日一緒だったでしょう? お風呂も一緒なの。だから初夜にそういう雰囲気になれなかったら困るのよね」


「贅沢な悩みなのに、切実ですね」


 ルーサルカが眉を寄せる。彼女はアベルと一緒に過ごした時間が少なく、緊張しすぎて卒倒しそうだと告白した。性的な知識は一応教育を受けたが、種族により情報が異なる。その辺の事情もあり、彼女達は抱えた不安を吐き出した。


「うちは精霊同士でしょう? だからあまり心配ないのだけど……風と水ってそんなに相性がよくないのよ」


「相性とか関係あるの?」


「ええ。精霊同士は溶けあって交わるのよ。だから属性の相性は重要だわ」


 知らなった話に少女達は目を丸くする。溶けあうって何だか照れるわね。リリスが頬を染めると、つられて全員が赤面した。


「それでもジンを選んだんでしょ? いいわね」


 レライエがくすくす笑いながら指摘した。相性が悪いのは生まれた時に分かっていて、それでも幼馴染と添い遂げる決断をしたルーシアを皆が祝福していた。


「シトリーはグシオンとどうなの?」


「グシオンは火龍だから、空を飛ぶ鳥人族ジズにとって仲間に近いわね。ただ炎の属性が強いから、子どもにどんな特性がでるか不安よ」


 ジズは風の属性を強く受け継ぐ。そこに炎の属性を持つ龍が足された場合、子どもにどちらが受け継がれるか。次世代の種族はジズか火龍に分かれるが、属性は混じることもあった。


「それは難しいな」


「炎と風……暖かそうね」


「火山地帯で暮らすなら、体質としては望ましいんじゃないか?」


 互いの心配をしながらも、前向きな意見が出揃ったところで……野菜サンドを食べ終えたリリスが肘をついた。行儀悪いと叱る人がいない場所で、リリスはぽつりと零した。


「皆、結婚したら通いになるのよね」


 どきっとした顔で、全員が顔を見合わせる。


「そう、ですね」


「ええ。引っ越しの準備も始めたの」


 ルーシアは実家のある湖の畔、火山近くの夫の実家に入るシトリーは居を移す予定だった。城下町にあるアベルの家に住むルーサルカは、月の半分を魔王城で過ごすらしい。レライエに至っては、アムドゥスキアスが稼いだお金で新居を建てる。


 ばらばらになることが寂しい。ずっと一緒に魔王城で暮らしてきたのに。リリスの声に滲んだ響きに、シトリーが頬を緩めた。


「リリス様の側近に選ばれた時、この魔王城に越してきました。思いだします。兄や父が心配して……実家に近い状況で暮らせるよう、部屋を熱帯雨林の温室のようにしてくれました」


「覚えてるわ、素敵なお部屋だもの」


 幼かったリリスは目を輝かせた。大公女達は、まだ幼いうちに親元を離れて一人で魔王城に来た。そのことを思い出し、リリスは申し訳なさそうに謝る。


「ごめんなさい。あなた達をご家族から引き離してしまったわ」


「お気になさらず」


「そうです。自分で選んだことです」


 選ばれたのは事実だが、承諾したのは自分達の意思だ。幼いながらも自分で選んだ道だった。後悔はしない。言い切る四人の表情に、リリスは小さく頷いた。


「ルキフェル大公閣下が設置した転移魔法陣があるから、毎日通ってきます。今までとあまり変わりませんよ」


「それもそうね」


 再び少女達の話は方向転換し、明るい話題で締めくくられた。扉の外で心配そうに行き来する魔王と翡翠竜が目撃されるが、アスタロトに回収されたとか?

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