282. 空飛ぶトカゲをお取り巻きが襲撃

「……突然送られてきたが、これはどう対処するのだ?」


 鳳凰が首を傾げた。愛しい番のピヨが遊びに来ているので、機嫌がよかった鳳凰の前に放り出された龍は、人型だ。しかも魔力を使い果たした状態で、魔法陣に拘束されていた。


「こういうのは、とりあえず牢屋に放り込むんです」


 衛兵のコボルトが、要領よく鮮やかな黄色い紐をぐるぐると巻き付けた。城門脇から押してきた台車の上に縛り付けると、慣れた様子で運んでいく。興味を引かれた鳳凰が後を追うと、座敷牢のような地下があった。階段ではなく、魔力を使った昇降機が利用されている。


「魔力は地脈から補うシステムなんです。ルキフェル様の開発品ですよ」


 なぜかコボルトは得意げに説明しながら、台車の上の女を座敷牢へ転がした。黄色い紐は巻き付いたままだ。嫌な感じがする紐を見ていると「魔力封じです」と簡単な説明をされる。


 門番しか知らない城門下の秘密を知り、ちょっと浮かれて地上に戻った鳳凰にピヨが駆け寄った。愛しい番の求愛行動かと受け止めた鳳凰だったが、ピヨは無邪気に鳳凰の尾羽を1本引き抜いて走り抜ける。どうやら最初から羽が目当てだったらしい。


 痛みと衝撃に崩れ落ちる鳳凰を哀れに思ったのか、付き添いの母性溢れるヤンが前足で撫でてくれた。


「まだ子供故、許してやってくれ」


 涙目の鳳凰の八つ当たりは、運ばれたばかりの罪人である龍に向けられるのだが……それは後日の話。その理不尽な尋問ぶりが評価され、正式に門番として採用されるのは数年後の話だった。








 森の木々の間から見える青空を、リリスが指さした。


「パパ、空飛ぶトカゲ」


 指さす先に、確かにワイバーンが飛んでいる。魔族は雑食が多いが、さすがに食べる種族は限られていた。しかし一度お土産に持ち帰ったところ、ヤンが喜んで食べてくれたため、リリスの中でヤンへのお土産ナンバー1に輝いている。


「ヤンのおやつか?」


「うん!」


「リリス様、私が落としましょう」


 やる気のシトリーが名乗りをあげる。口を開いて自分がやると言い出す前に、リリスの口を指先で押さえた。ルシファーの行動に首を傾げたリリスへ、笑顔で説明する。


「部下が名乗り出たときは、任せるのが主人の器量だ。逆に部下が危なくなったら身を挺して守るのも、主人の役目だぞ」


「ん~と、獲物を譲って、守ればいいの?」


「賢いぞ、さすがはオレのお姫様だ」


「……獲物じゃなく、手柄」


 ぼそっと呟くルキフェルを笑顔で黙らせたルシファーの前で、手を挙げたシトリーが気流を乱す螺旋風を作り出す。空を飛ぶ以上、ワイバーンの飛翔は風に左右される。必死で態勢を立て直そうとするワイバーンを、ルーシアの水の刃が切りつけた。


 しかし攻撃が浅いのか、落ちてはこない。堪えて飛ぼうとするワイバーンへ、レライエが火の球を飛ばした。魔力を操り、炎の色を赤から白まで高めるのに時間がかかったらしい。シトリーの風が誘導した炎がワイバーンに直撃した。


 ぐぎゃあああぁぁぁ!


 耳に優しくない鳴き声で落ちたワイバーンが、木々の間に落ちる。駆け付ける間に魔法で植物を操ったルーサルカが、ワイバーンを地面に縛り付けていた。


「見事な連携だ」


 褒めるルシファーに、少女達は嬉しそうに笑う。しかしリリスは唇を尖らせた。自分が見つけた獲物なのに倒されちゃうし、大好きなパパが皆に笑顔を振りまくし……つまらない。


「もう、帰る」


「こらこら、オレのお嫁さんがそんな我が侭じゃ困るな」


 ぷくっと頬を膨らませたリリスを抱き上げ、額同士をこつんと当てて向き合う。腕の中でも機嫌を直さないリリスの頬へ、ルシファーが唇を寄せた。触れるだけのキスだが、少し頬のふくらみが小さくなる。


「オレはまだ、リリスの格好いいところ見てないぞ。もっと獲物はいるから、たくさん狩って帰ろう。イフリートにから揚げ作ってもらうんだろ?」


「コカトリスぅ!」


 機嫌が直ったようだ。可愛いお姫様は下りると言い出し、自らルーサルカと手を繋いだ。反対側でルーシアが手を取れば、にこにこと手を揺すりながら歩く。


「……陛下より単純」


「何か言ったか? ルキフェル」


 ぶんぶんと勢いよく首を振ったルキフェルは、慌てて先に立って歩き出した。

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