461. 後悔とは後で悔いるもの
※残酷表現があります。
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攻め込んだ魔族に捕まった。やたら綺麗な男だが、血が似合う恐ろしい奴だ。国王である父の指を微笑みながら折り、嬉しそうに切り落とした。
魔族の会話で何かを聞き出そうとしたことを思い出し、必死で震える声を絞り出した。父が話さなければ、次は自分の番だ。しかし答えは無情だった。
「や、めろ! 何が聞きたいっ!?」
「聞きたいこと、ですか? 聖女は回収しましたし、異世界からの召喚方法も、召喚魔法陣の場所も、すでに配下の者が探り当てました。あなた方に価値はありません」
子供の頃は公爵家の嫡男として、ある程度の年齢になったところで新興国ガブリエラ国の王太子となった。次の国王なのだ。激痛に泣き叫びながら、バラバラに切り刻まれるのは御免だった。魔族に価値がないと蔑まれても、生き残って国王になるのだ。
やたら顔の整った魔族は、返り血に濡れた赤い爪を舐めながら、何か思いついた様子で笑顔を浮かべた。作り物めいた天使の顔で、残酷な悪魔の言葉をはく。
「そうですね。連れ帰って領地に放ってみましょうか。きっと領地内で留守番の彼らも、お土産を楽しみにしているでしょう」
まるで遊びに出た先で何か土産を見繕うような口振りだが、この土産に該当するのが自分達だと仮定すると、恐ろしさに身が竦んだ。
呻く国王の指がまた1本切り落とされる。片手間のように拷問めいた作業を繰り返しながら、魔族は魔法陣を簡単そうに石畳の上に描いてみせた。
城の魔術師達も魔法陣を使うが、毎回苦労して本を片手に計算しながら描いている。それを簡単そうに一瞬でこなした男は満面の笑みでこう呟いた。
「狩りは貴族の嗜み、獲物は生きが良いほど……」
魔法陣を発動させた男の言葉は最後まで聞き取れなかった。しかし口元に浮かんだ三日月の笑みと、光を弾いて揺れた金髪が、妙に目に焼き付いた。
放り出されたのは森の中。鬱蒼としげる木々は見上げる大きさだが、この場所だけ広場のように開けていた。一緒に囚われた貴族が6人、護衛の騎士2人、王太子たる自分……父はいない。
「殿下、ここは」
「おれが知ってる訳ないだろう。それより、すぐに逃げるぞ。ここは見通しが良くて危ない」
「殿下は我々がお守りいたします。こちらへ」
騎士が先頭を切って歩き出し、後ろに続いた。ぞろぞろと付いてくる貴族は役に立たない。いざとなれば騎士と自分だけで逃げるべきだろう。貴族の代わりなど幾らでもいるのだ。
この時点で、彼らはもう逃げ出せない迷宮の中にいたのだが……当人達がそれを知るのは数日後だった。
「阿部、お前は何をしたんだ?」
ルキフェルが怒りに震えながら部屋を後にした直後、イザヤが声をかけた。床にへたり込んで震える後輩は何も言わない。ただ首を横に振って何かを否定する仕草を繰り返した。
怖がる杏奈を宥めながら、イザヤが思い出したのはこの部屋を出て行く彼のセリフだった。
「いない間に殺す相談されると困るから、ちょっと様子を見てくる」
簡単そうに言い置いて出て行ったが、連れ戻された時の様子を見れば、それが魔族を怒らせたのだろう。彼が余計な発言をしたのかもしれない。
状況が理解できない中、今度は銀髪の男が飛び込んできた。しかし目当の少年がいないとわかると、すぐに踵を返した。その様子から、状況が悪い方へ向かっていると気づく。
「阿部に任せたのが失敗だった」
後悔とは文字通り、後から悔いるもの。お調子者の阿部に任せた自分が悪かったのだ。震える妹を撫でながら、床に蹲る後輩に眉をよせる。イザヤは大きな溜め息をついた。
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