47. 嫉妬も過ぎると叱られます
リリスをお迎えに行って、夕食も一緒に食べた。膝の上でご機嫌だったリリスを抱っこして、立ち上がったルシファーは隣室に落ちているボールに気付く。買い与えた玩具や献上された品はすべて記憶しているのに、このボールは知らなかった。
「ん? こんなのあったか?」
「あう、らーい、リー」
リーは最近覚えた自分を示す単語だ。必死に翻訳したルシファーの脳裏に「リリスが
「オレが知らない奴から物もらっちゃダメだろ、リリス」
そいつが男だったら、もしリリスに邪な感情を抱いていたら……惚れて気を引こうとしてるのかも知れない。まだこんなに幼くて、純粋で、可愛いリリスを見初めたなら、その慧眼は褒めてやろう。だがオレからリリスを奪おうとするなど、万死に値する!
ここまで一気に考えたルシファーの次の言葉は、酷く物騒だった。
「よし、ボールの持ち主は排除しよう」
ボールを拾い上げて、元の持ち主を特定しようとする。ところが表面には堂々と紋章が記されていた。ルシファーの記憶力が全力で思い出した結果、アスタロトと同じ結論に達する。
「ドラゴニア家か。いい度胸だ……ふふふ」
魔王という称号がこれ以上似合う表情はないだろう。黒い黒い笑みを浮かべたルシファーが廊下の警備兵に声をかけた。
「謁見の間に、大公をすべて呼べ」
緊急事態と察した兵はうかつに口答えせずに頷き、ルシファーは満足げに広間へ向かった。もちろん、腕にリリスを抱いたまま。彼女は眠くなった目を擦りながら、恐怖の笑みを浮かべたルシファーに寄りかかる。
「寝ていろ」
黒髪を何度も撫でると、彼女は大きな欠伸をして眠ってしまった。愛らしい寝顔を堪能しながら、ルシファーは玉座に腰掛ける。やっぱりリリスを膝に抱いたままだ。
「陛下、お呼びと伺いました」
「何かございましたか?」
ルキフェルをつれたベールと、アスタロトが慌てて入室する。後から胸のはだけた扇情的な格好のベルゼビュートが走ってきた。
「間に合ったわ」
「ベルゼビュート、陛下の前でその格好は不敬ですよ」
「しかたないでしょう。寝るところだったんですもの」
ピンクの巻き毛をふわふわさせて文句をいう美女は、腕を組んでぷいっとそっぽを向いた。子供っぽい所作だが、不思議と魅力的だ。しかし残念ながら、この場の男達に効果はなかった。
「夜遅くに呼び出した理由はこれだ」
ボールを右手で掲げる。左手にはリリス嬢がすやすや眠る。アンバランスな視覚情報に、アスタロトは複雑そうな顔をした。
「そのボールなら昼間も見ましたが、何が問題でしょうか」
「オレのリリスに言い寄る気だ。ドラゴニア家の長男を捕らえよ」
「………アスタロト、後を頼みます」
ルキフェルと繋いでいた手を離したベールが近づき、ルシファーの前で片膝をついた。ボールを受け取って確認し、立ち上がる。直後、ルシファーへ向けて拳を突き出す。あっさり空の右手で掴まれた。腐っても最強の魔王だ。
「前にも言いましたが、いい加減になさい! リリス嬢がお友達を作るたびに、全員殺して歩く気ですか!」
「友達? 貢物を異性に贈っておいて?」
「あの年齢で異性という意識はありません。ましてや貢物ではなく、リリス嬢の気に入った玩具を譲ってくれた親切と考えるべきでしょう」
右手でベールの攻撃を留めたまま、ルシファーは眉を寄せた。言われてみたら、そんな気もしてきた。ちょっと神経質に考えすぎたか。顔を上げると、欠伸を隠さないベルゼビュート、崩れ落ちそうなアスタロト、すでに座り込んで眠っているルキフェルが見えた。
「えっと……夜中にごめん」
ベールの手を離して頭を下げると、上からごつんと拳が落ちてきた。避けずに受け止めると、ベールも満足したらしい。
「次はありませんからね」
念を押して戻るベールがルキフェルを抱き上げる。ベルゼビュートはひらひら手を振って出て行った。拗ねたような魔王の傍に歩み寄ったのはアスタロトだけ。
「心配なのはわかりますが、もう少し余裕が必要ですね。次は騒ぐ前に相談してください」
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