632. 不在の間に無礼講
皆で一緒にお茶を飲もうと誘ってみたところ、なぜか大公4人が全員外出していた。普段は必ず1人以上城に残るはずだが、急用が出来たのだという。呼び出してまでお茶に付き合わせる気もなく、残っていたメンバーでお茶会を設定した。
リリスの希望で庭の温室内に場を設える。エルフ達が薔薇の移動をして空間を作り、アデーレ達侍女が手早く家具を整えた。茶器もそれぞれの種族に合わせて用意したところで、着飾った魔族が集まってくる。口うるさいアスタロトがいないと分かった時点で、城中に誘いをかけた。
いつも泥だらけのドワーフは髭を綺麗に整え、エルフ達は普段結わない髪をゆるく纏め、デュラハンも馬にブラッシングして現れた。
「今日は無礼講だ、楽しんでくれ」
側近達がいれば頭を抱えて止めに入る暴挙だが、腕を組んだリリスが楽しそうなので良し。記憶が戻り、恋人としてのキスをクリアしたルシファーは、ご機嫌だった。
普段通りの黒衣だが、上質な絹の盛装で現れた魔王は珍しく着飾っていた。リリスが望むままにアクセサリーを揺らし、他人が着けたら即死確実な王冠を3つ乗せる。さらにネックレスやら指輪やら、あちこちに高価なジュエリーが揺れた。
隣のリリスは自分の見立てで飾った魔王を上から下まで見て、満足そうだ。彼女はルシファーが望むままに、国宝級のネックレスを首に巻き、お揃いで作らせた耳飾りを揺らす。王冠に似せた豪華なティアラを乗せた黒髪は緩く編んでいた。首筋を隠す形でざっくり編んだ髪の中に、小さな白い花がいくつも差し込んである。
薄く化粧を施した頬はほんのり赤く、唇は愛らしいピンク色に染められた。肩のあたりはほぼ白いドレスが腰のあたりで桜色に染まり、足首まで覆う裾は桃色に変わる。大胆なグラデーションのドレスは、銀糸で細かな地模様が刺繍された手の込んだものだ。
侍女アデーレの会心の作であるリリス姫は、集まった魔族達に優雅に微笑んで軽く一礼する。慌てて皆が頭を下げるが、くすくす笑うリリスの声に釣られて顔を上げた。
「ゆっくりしていってね」
幼女の頃と変わらぬ気さくな魔王妃に、全員が「はい」と異口同音に答えた。
「リリス様」
歩み寄るルーサルカは白茶の尻尾が際立つ濃茶のドレスだった。身体に沿う妖艶なデザインはベルゼビュートを思わせるが、まだ若いため色気より微笑ましさが先に立つ。獣人系は尻尾を外に出すのが一般的なため、白茶の毛皮がドレスの裾を揺らしていた。
「素敵!」
礼を言って微笑むルーサルカが小さな花束を差し出した。リリスは素直に受け取り、香りの強い小さな白い花に目を細める。話をし始めてすぐに、今度はレライエが近づいてきた。
肩に翡翠竜を乗せるためか、ふわりとした大きなスカートのドレスの上はボレロを羽織る。全体に黄色を多用した姿は、彼女のオレンジの髪や翡翠竜の緑によく映えた。
「可愛いわ。色もいいわね」
褒めるリリスへ「アドキスのプレゼントです」とレライエが笑った。聞き慣れない呼称に首をかしげるルシファーへ、婚約者の頬にぴたりと寄り添ったアムドゥスキアスが得意げに胸を反らせる。どうやら彼の愛称らしい。私の婚約者が考えてくれたのだと誇る翡翠竜を、リリスがつついた。
「アドキス……呼びやすくなったわ」
後ろで控えるイポスはいつもの騎士服ではなく、父親にプレゼントされた緑のワンピースだった。リリスが翡翠竜に触れる時も心配そうに見るが、剣の柄にかけた手を外さないあたり護衛としての意識は高い。無礼講なのだからもう少し肩の力を抜けとルシファーが笑っても、イポスは頑なに首を横に振って拒んだ。
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