206. ゾンビ大爆発の代償
城門の上にいたルシファー達の結界はもちろん、住民を守ったアスタロトの結界もゾンビの欠片に覆われていた。まったく外の状況がわからない。
「この程度の魔法陣で爆発なんて……ふふっ」
アスタロトの口から乾いた笑いが漏れる。しかしその表情は笑みの欠片もなく、じわりと漂う怒りのオーラに、住民達は抱き合って震えた。ゾンビに追われた挙句、爆発に巻き込まれた彼らに逃げ場はない。
この怒りは間違いなく、何らかの形でルシファーに向かうだろう。
「やだ、臭いがついちゃうわ」
ピンクのふわふわ巻き毛を摘んで顔をしかめるベルゼビュートが、風と水の魔法を使ってアスタロトの結界の表面を洗った。
「みんな平気?」
「ああ、助かりました」
珍しく礼を言われたベルゼビュートは浮かれながら、肉片の片付けに着手した。
城門の上では……外が見えないくらい叩きつけられた腐った肉片に、魔王様ががくりと膝をつく。
どうしよう、この結界を消さないと前が見えない。でも消したら、重力に従った腐肉が落ちてくる。解除と同時にどこかへ肉片を転移するか? いや、先に肉片だけ転移する魔法陣を作るべきか。
真剣に悩むルシファーだが、リリスはぜんぜん違う解決方法を提示した。
「パパ、このバリアは臭いからポイして」
ぺっと投げ捨てる仕草にヒントを得て、肉片ごと結界を他所へ転移した。当然結界に張り付いた肉片も範囲指定したので、一緒に消える。臭いは残るが、新たに臭いを遮断する魔法陣を描きなおした。
「……助かったぁ」
ほっと安堵の息をついたルシファーは、腕の中で無邪気に笑うリリスの黒髪を撫でる。可愛い天使だが、意外と危険なこともさらりと行うので、今後のためにここは心を鬼にして注意すべきだ。
「リリス」
「なあに?」
「オレの魔法陣を勝手に使っちゃダメだ。危ないだろう。今回はゾンビ大爆発で済んだが、もしかしたらリリスの可愛いお手手がなくなってもおかしくないんだぞ」
「花火したかったんだもん。どうしてもダメなの?」
残念そうな声に「くっ」と呻く。やばい、尖ったピンクの唇が可愛くて流されそう……必死で堪えるルシファーに強力な助っ人が現れた。
「リリス嬢、ルシファー様はあなたの心配をしているのですよ」
「きちんと習ってないのに魔法陣を使ったら危ないよ」
ベールとルキフェルの説得に、リリスは不満そうな表情ながらも頷いた。その黒髪を撫でて宥めながら、何とか「いいよ」と言わずに堪えたルシファーに、大公達が生温い視線を向ける。
……昔はまあまあ格好よかったのに、リリスが絡むと残念すぎる。
彼らの酷評がルシファーに届くことはなく、反省まで至らない幼女はこてりと首をかしげた。
「パパ、あの辺が変な色だよ」
無邪気に指差すのは、ゾンビの呪詛に覆われた大地よりずっと先だった。魔の森の一角だが、あの辺りは魔王直轄地になっており、城の庭の一部に分類されている。つまり、他の魔族が入り込む可能性が限りなく低い土地だった。
「近くに行けば、色の違う場所はわかるか?」
「行かないとわかんない」
確かにリリスの言う通りだ。近くに行ってみないと判断がつかないのだろう。ならばと黒い翼を2枚広げた。すぐに反応したのは、ベールだった。
「お待ちください。念のためアスタロトかルキフェルをお連れください」
戦闘力としてのアスタロト、分析が得意なルキフェル。どちらでもいいから連れて行けと言われ、城門の下を見る。アスタロトはまだ後処理に追われていた。
ゾンビの腐肉は食べられないため、魔物達も引き取ってくれない。
仕方がないので転移が使える魔族によって、魔の森の外れにあるゴミ捨て場に投げ入れるのが通例だった。大きな穴が開いており、底の部分に火山のマグマが流れている。ゴミの最終処分場として焼き尽くすのだ。
「アスタロトは忙しそうだし、今回はルキフェルに頼むか」
「うん」
素直に頷いたルキフェルが、ベールと繋いでいた手を離してルシファーと繋ぎ直す。
「お気をつけて」
見送るベールを置いて、ルキフェルごと浮き上がる。まだ幼いルキフェルだが、
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