662.滞在三日目:ソーディアン公爵家の王都邸

 とりあえずろくでもない遺失魔法ロスト・マジックの検証も終わり帰ろうとしていたところ、ガベル様に引き留められました。


 今回のお礼も兼ねて夕食をごちそうしてくれるそうです。


 お父様も乗り気ですし、聖獣たちなら夜になってからでもシュミット公国まで帰れるので問題ないでしょう。


 お父様が深酒して帰れなくなったら置いて帰りましょう。


 弟子たちがなにかやらかしてないか不安ですし。


 シャルともそういうことで話がつきましたし、先にソーディアン公爵家の王都邸で待たせていただくことになりました。


「……お前たち、いざとなったら私だけ置いて帰るのは冷たくはないか?」


「なら深酒をして醜態を晒さないでください」


「自分の足でスレイプニルに乗ってシュミット公国まで帰ればいいんですよ。聖獣が空で騎乗者を落とすなどあり得ませんし」


「……やはりお前たち兄妹は強いな」


「それより、アンドレイ様。ソーディアン公爵家の王都邸まで着きました」


「そうだな。リリス、すまないが門衛にガベル殿の書状を」


「はい」


 リリスが渡した書状を確認すると慌てて門衛は屋敷の中に飛び込んでいき、すぐに男性がやってきました。


 彼がこの家の家宰でしょうか?


「お待たせいたしました、アンドレイ公王陛下。私めは家宰のライナーと申します」


「私はシュミット公国公王アンドレイ = シュミット。すまないな、突然押しかけてしまい。もてなしもできなくて構わぬ。こちらも極秘会談から決まった急な来訪だ。先触れもなしに来てしまったこと許されよ」


「恐縮です。そちらの方々は?」


「娘で次代となる公太女のシャルロット。それから国を出ていまは国外の人間となってしまっているが息子のスヴェイン、その第一夫人アリア、第二夫人ユイ、スヴェインの使用人リリスだ」


「その方々が『隠者』スヴェイン様と『エレメンタルマスター』アリア様。国を出たというのは?」


「出奔した後の三年間……いや、四年間で国外にしっかりとした拠点を構えていてな。国に呼び戻すことがかなわなかった。いまはたまたまシュミットに帰省していたところをガベル殿との極秘会談に同席させたのだ。……その答えを導き出したのもこやつの知恵だがな」


「旦那様の問題……あれでございますか。ありがとうございます。これ以上立ち話もなんですし屋敷の中へどうぞ」


「失礼させてもらおう。聖獣たちは前庭でのんびりさせておいてもよろしいか?」


「はい、構いません。ご自由に遊ばせてあげてください」


「だそうだが……遊ぶと思うか?」


「そのあたりで横になっているだけでしょう。全員」


「そうですわね。他人の家ではしゃぐこともないでしょうし」


「麟音もおとなしいですから」


「ニクスも普段はほとんど寝ていますよ」


「それもそうだな。ともかく、招かれているのだ。屋敷の中に参ろう」


 ライナーさんに案内されてソーディアン公爵家の王都邸へ入りました。


 やはり公爵家の屋敷、昔王都にあった辺境伯邸よりも年季があって立派です。


「旦那様は夕食をともに、とありましたが皆様はどうなさいますか?」


「ふむ、どうする?」


「どういたしましょう? まったく考えても来ませんでした」


「そうですね。グッドリッジ王国との会談が終わったあとはシュミットに戻るとばかり」


「あまり考えていませんでしたわ」


「私も……」


「ユイ様は貴族のお屋敷に慣れていませんものね」


 さて、これは困りました。


 夕食までは少々時間があるでしょうし……どうしたものか。


「それではその……大変失礼ですが、ひとつ相談に乗っていただけますでしょうか。旦那様の書状にももしお許しがでたら相談に乗ってもらうよう書いてありましたので」


「ふむ。我らは基本的に武人。それでもよければ」


「その……そちらの方が都合がよいのです。ひとまず応接間へ」


 武人の方が都合がいい相談事とは一体?


 ともかくライナーさんの後に続き応接間へ。


 各自が席に着くとライナーさんも相談のために席に座り、懐から先ほどの書状を取り出しました。


「こちらが先ほど旦那様が送ってきた書状になります。皆様もご確認ください」


「構わぬが……よいのか?」


「はい。相談事に乗っていただけるようでしたら読んでいただくよう指示が出ています」


「わかった。拝見させていただく」


 お父様は書状の内容を読みシャルへそれを手渡しました。


 そしてシャルもその内容を確認してから僕の元へ。


 僕もその内容を確認すると……これはまた、相談したくもなる。


「オルドの妹の婚約者問題か」


「はい……大変お恥ずかしながらフランカお嬢様は今年で十四歳。しかし、いまだに婚約者が決まっておりません」


「えっと、スヴェイン。女性貴族で婚約者がいないってそんなに問題なの? 私は平民だからわからないんだけど……」


「ユイはわからぬだろうが……公爵家ほど格の高い家で婚約者がいないというのはあまり外聞がよくないな。社交界では『性格に問題あり』と取られてしまうだろう」


「そうですね。シュミット公王家……当時は辺境伯家はあまりそういうものを気にしていませんでした。お兄様こそアリアお姉様が婚約者になりましたし、その前にもいたそうですがアリアお姉様の前は祖父同士の縁で繋がった婚約。そのあとはアリアお姉様がずっと側にいました。貴族同士の縁談というのは恋愛関係で結ばれることの方が稀ですが、さすがにいないというのはちょっと……」


「シャルにもいませんでしたがね。いまのソーディアン公爵家では下手な貴族と結びつくのがまずいのはわかります。わかりますが、婚約者がいない理由は?」


「その……大変申し上げにくい理由なのですが……『私より剣で弱い殿方とは絶対に結ばれない』と仰せでして」


「強気だな」


「さすがはソーディアン公爵家」


「剣の名家としか言いようがありませんが……女性までそうなっているのはちょっと」


「なにか妙案はございませんでしょうか?」


「「「妙案……」」」


 確かに武家寄りの問題です。


 問題ですが……他家の婚約事情まで首を突っ込んでよいものでしょうか?

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