研鑽の日々と増える仲間

14.領都シュミット到着

『あそこに見える大きな街が領都かい?』


 聖獣たちと旅をすること数日、ついに旅の終着点である領都シュミットが見えてきました。


「ええ、そうですよ」


『立派な街ね。たくさんの人の気配が感じられるわ』


「シュミットは辺境ですからね。人間以外にもさまざまな種族が暮らしています」


「そうなんですね。私は人間以外の方には会ったことがありません」


「辺境伯邸に戻れば人間以外の使用人もいますよ。アリアはまず慣れてもらうところからですが」


「申し訳ありません。お手数をおかけしてしまい」


『いまのアリアなら大丈夫だと思うわ。かなり他人にも慣れてきているもの』


「ユニ様にそう言っていただけるとありがたいです」


 最近では僕を乗せるのは主にウィングの役目、アリアを乗せるのはユニの役目になっています。


 ときどき交代しますが、基本的には先ほど述べた通りの騎乗の仕方になっていますね。


「アリア、そろそろ馬車に戻った方がいいですよ。領都には先触れも出ているはずですし、住民たちが見物に出ている可能性も高いです」


『そうね。いきなり大勢の目の前に出るのは避けた方がいいわ』


「わかりました。では、次の休憩のときに戻らせていただきます」


「そうしてください。次が最後の休憩のはずです」


「はい。……スヴェイン様はこのままウィング様に乗って街に入るのですか?」


「……そこもお父様と相談ですね」


 街に入る手前で最後の休憩を取る最中、お父様に僕はどうするべきか尋ねてみました。


 返ってきた答えは、できれば聖獣たちとともに街に入ってほしいとのことです。


 聖獣はおとぎ話に出てくる神聖な存在であると同時に、邪悪なものを滅ぼす存在であることから、聖獣単体で街に入ると怖がらせてしまうかも知れないと言うことでした。


 それなら自分もというアリアの申し出は気持ちだけ受け取って断り、僕がウィングに乗って街に入ることとします。


『人からすれば僕たちは怖い存在なのかな?』


『あまり人前には出ないもの、仕方がないんじゃない?』


 話の中心である聖獣たちはのんきなものですが。


「それではこれより領都へ帰還する!」


 お父様の合図とともに隊列が動き出します。


 僕とウィングそしてユニは、お父様たちが乗る馬車のすぐ前を歩いていました。


 やがて街門を抜け街の中央通りに入ると多くの住人たちが出迎えに来ています。


 ただ、ウィングとユニの姿を見て驚きと困惑を浮かべるものが大半ですが。


「……あれって聖獣のペガサスとユニコーンだよな?」


「なんで聖獣が領主様たちと一緒にいるのかしら?」


「それにペガサスにまたがっているのはスヴェイン様だ」


「一体どういうことだろうね?」


 お父様は周囲の混乱を抑えるために騎士の一部を除いた兵士たちを帰還させて、僕たちの馬車を中央広場に止めました。


「聞け、皆のもの。我々領主家はいま戻った。スヴェインがどのような職に就いたかは追って知らせるが、その前に聖獣様たちがいることが気になるであろう。聖獣様たちはスヴェインと契約を結びこの地へとやってきた。これからは領主邸でともに過ごすこととなる。皆の前に顔を出すこともあるだろうが、悪事を働かない限りは無害である。それを覚えておくように」


 その言葉を聞いた住人たちは一瞬あっけにとられましたが、僕がウィングとともに前に出るとお父様の言葉が真実であると理解してくれたようです。


 最初はまばらでしたが拍手を持って迎え入れてくれました。


『へぇ。人も意外と気が利くじゃないか』


『そうね。悪くはない気分だわ』


 ウィングとユニもご機嫌ですし、これでよかったのでしょう。


 お父様は今回の王都での出来事について子細はまた発表すると告げて馬車に戻り、領主邸への道を進み始めます。


『スヴェイン、このあとは家に帰るだけなのか?』


「はい、そうですよ?」


『それなら、少し街の人たちにサービスをしてあげましょうか。ウィング、準備はいい?』


『ユニこそ失敗するなよ?』


「え? なにをするのですか?」


『たいしたことじゃないよ』


『ちょっと怪我や病気を治してあげるだけよ』


 それって大したことですよ!?


 ですが、止める間もなく2匹は魔法を発動させました。


 天から虹色の光が降り注ぎ、街全体を照らしあげます。


「おい、肩の痛みが取れたぞ」


「私は昨日怪我をしたところが治ったわ」


「儂は腰の痛みがとれたわい」


「……いまのって聖獣様たちの力だよな?」


 まずいです。


 このままでは別の意味で騒ぎになってしまいますよ。


「ウィング、ユニ! すぐに飛んでください! 僕の家の場所は教えます!」


『そう? わかったよ』


『人はこの程度でも騒ぎになるのね?』


「だからこそ聖獣は狙われるのですよ!」


 広場が混乱する前に僕たちは空を飛んで脱出、お父様たちより先に領主邸に戻るわけにもいかないため、少し空の散歩を楽しみました。


『人はやっぱりよくわからないな。あの程度で騒ぎになるんだから』


『そうね。あんなことで狙われてるんじゃ、たまったものではないわ』


「それだけが理由ではないですが……はぁ」


 お父様たちが領主邸に戻ったのを確認して、僕たちも領主邸に舞い降ります。


 先ほどウィングとユニが使った魔法はお父様たちにも察知されており、ウィングたちはあまり勝手な真似はしないでほしいとお願いされていました。


 僕にもウィングとユニがなにかをしそうになったら止めるようにと指示が下ります。


 承知はしておきましたが、どこまでできるかはわからないところですね。


 2匹の行動はいきなりですから。

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