13.聖獣とともに

『おはよう、スヴェイン!』


『おはよう、スヴェイン。いい朝ね』


「おはようございます。ウィング、ユニ」


 聖獣たちを連れ帰ってから2日目の朝、今日も2匹から朝のあいさつを受けます。


 正確には、2匹とも僕たちのテントの前で出てくるのを待ち構えているのですが……。


「おはようございます。ウィング様、ユニ様」


『アリアもおはよう』


『おはよう、アリア。昨日はよく眠れた?』


「はい。ユニ様のくれたお花のおかげでぐっすり眠れました」


『それならよかったわ。あなた、つらそうだったもの』


 この旅に出てからというもの、アリアは僕と一緒にいてもうなされることがあります。


 それをユニは森から採ってきてくれた花で解決してくれました。


『それで、今日はこの森から出発するのだったかしら?』


「その予定ですね。近くの街から応援部隊も着いていますし、僕たちは領都へ引き上げることになるでしょう」


『領都かぁ。人間がたくさんいるんだよね?』


「そうですね。たくさんいますよ」


『私たちにとって住みやすいかどうかは疑問ね。スヴェインから離れるつもりはないから我慢するけど』


『そうだね。僕も我慢するよ』


「あはは……無理はしないでくださいね?」


 2匹とも僕やアリアには気軽に接してくれますが、基本的に人間は好きじゃないみたいです。


 僕たちは心が濁ってないから大丈夫なんだとか。


「スヴェイン、アリア。起きていたのか」


「お父様。おはようございます」


「うむ。聖獣様たちとお話していたようだな。邪魔をしたか?」


『僕たちの話は一段落ついたところだよ』


『あまり気にしないで』


 この2匹は僕とアリア以外の人間には素っ気ない態度を取ります。


 2日前に森から出てきたとき、武器を向けられたことを怒っているのだと思いますが……そろそろ機嫌を直してほしいですね。


 森の中から聖獣が、それも2匹同時に出てくれば人間は驚くものですから。


「わかりました。それではふたりとも、朝食を食べてきなさい。テントをしまったら出発の時間だ」


「はい。それではまたあとで」


『僕たちは周囲を見て回るよ』


『密猟者? はもういないみたいだけどね』


 この2匹は暇さえあれば周囲の警戒にあたってくれます。


 僕と契約したことで力も増したとか。


 2匹を見送ったら僕たちも朝食です。


 そして朝食を食べ終わる頃には2匹とも帰ってきていました。


『スヴェイン。この先に立ち往生している馬車がいたよ』


『あなた方が通るには妨げとなるんじゃないかしら?』


「わかりました。お父様に話してみます」


 2匹ともこうした情報を持ち帰ってくれるので助かります。


 この馬車は商人の馬車だったらしく、車輪がわだちにはまって動けなくなっていたとのこと。


 様子を確認にいった兵士が土魔法で道を整備して動けるようにしてあげたそうですよ。


 ……問題はそのあと起こりましたが。


『スヴェイン、本当にその馬車とかいう箱に乗っていくの?』


『私たちの方が乗り心地がいいし安全よ?』


「そうは言われても……」


 こればかりは勝手に決められません。


 なのでお父様たちに相談しました。


 すると。


「聖獣様たちがよいと言っているのであれば、乗せてもらってもよいぞ」


「そうね。問題ないと思うわ」


『よかったね、スヴェイン』


『問題はどちらに乗るかよね?』


『また途中交代だよね』


『どちらが先かしら?』


「またケンカはしないでくださいね?」


 この2匹は普段仲がいいのに、僕を乗せることになるとすぐにケンカを始めます。


 どうしてなんでしょうね?


「……あの、スヴェイン様」


「どうしたのですか、アリア」


「私も聖獣様に乗ってみたいのですが、だめでしょうか?」


「ウィング、ユニ?」


『アリアなら構わないよ』


『そうね。アリアを乗せるなら、先に私がアリアを乗せるわ』


『あれ、いいのかい、ユニ?』


『だって、あなた飛ぶ気でしょう?』


『ペガサスは飛んで移動するのが普通だよ?』


『私も飛べるけど普段は地上を走るもの。あなたが先にアリアを乗せたら驚かせてしまうわ』


『……そんなことないよね、アリア?』


「ええと……さすがにいきなり飛ぶのは怖いです」


『そういうことよ。あなたはスヴェインを乗せて低いところから飛びなさい』


『そうか、人間は飛べないんだよね。わかった、そうするよ』


 なんとも不安な発言です。


 ですが乗ると決まった以上、断るわけにもいかないですし。


 その後もふたりと2匹で話をしていると出発の時間となったようです。


 話し合いで決まったとおり僕はウィングに、アリアはユニに乗りました。


 そして馬車が進み始めると、それにあわせて2匹も動き始めてくれます。


 普通の馬と違い、手綱や鞍がなくても姿勢が安定するのはよくわかりませんが。


『ねえ、このスピードでずっと走り続けるの? ゆっくりすぎない?』


「歩く兵士も一緒ですからね。このペースで進みますよ」


『うーん。ねぇ、スヴェインのお父さん。スヴェインを連れて少し空の散歩に行ってきちゃだめかな?』


「……そうですな。聖獣様が一緒なら大丈夫でしょう」


『許可が下りたみたいだね。スヴェイン、ちょっと行ってこよう』


「ウィング、手加減はしてくださいね?」


『わかってるよ。さあ、出発だ!』


 ウィングはその翼を一回はためかせると、勢いよく空へと舞い上がっていきます。


 その空から見る景色は……とてもよいものでした。


『気持ちがいいでしょ? 空から眺めるとこの世界はこんな風になっているんだよ』


「初めて知りました。僕の視野もまだまだ狭かったのですね」


『人間の見ている世界なんて狭いものさ。その狭い世界だけで争ったりするなんて無意味だと僕は思うけど』


「手厳しいですね。僕もそう思いますが」


『あら、私もそう思うわよ』


 ユニの声が聞こえたので左を向くと、アリアを乗せたユニがそこにいました。


 アリアも空からの眺めに感動しているようです。


『人間は狭い世界でしか生きられない。それにモンスターにだって簡単に負けてしまう。なのに同族同士で殺し合う。わけがわからないわ』


『そうだね。僕たちの基準じゃまったくわけがわからないよ』


 人間は聖獣たちから見るとそう映るのですね。


 でも、そう言われても仕方がないのかも知れません。


『アリアもひどい目にあったようだし、人間は本当に愚かな生き物ね』


「僕やアリアもその愚かな人間ですよ?」


『あら、それもそうね。愚かな連中もいる、に訂正するわ』


『それがいい。……さて、そろそろスヴェインのお父さんのところに戻ろうか』


『あまり長居するとアリアの体が冷えるかも知れないわね。アリア、空にはまた連れてきてあげるからいったん戻るわよ』


「はい! ありがとうございます、ユニ様!」


『気にしないで。ウィングも早く戻ってきなさいよ』


『はいはい。それじゃ、僕たちも戻ろうか』


「そうですね。戻りましょう」


 僕たちがお父様の待つ馬車に合流したのはその数分後です。


 そのあとも領都に着くまでの数日間、何回か空の旅へと2匹は僕たちを連れ出してくれました。


 本当に得がたい経験だったと思います。


 ただ、毎回街に入るたびに注目の的になるのはどうにかしてほしいものですが……。

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