12.聖獣契約

「マジックバッグ!? それも百倍以上!?」


 軽々しく親ユニコーンが持ち出してきたマジックバッグ。

 それは国宝級のものでした。


『そんなに驚くほどのものか? 私の主だった女は千倍以上のマジックバッグを軽々と作っていたが……』


「いまの技術では百倍だって滅多に作れませんよ!?」


『そうなのか。だが、お前はその薬草袋を継承する資格があると考えた。なので、それはもうお前のものだ』


「では、ありがたくちょうだいいたします。でも、薬草を育てる方法も失伝しているのでうまく育てられるかどうか……」


『そうか? 薬草を育てるときは……あれだ、魔力水とかいう水を撒いてやればよい。通常の水魔法の水でも育ちはするが、品質は上がらん。上位の薬草になれば、霊力水や聖霊水でなければ育たないと言っていたがな』


 親ユニコーンの話したことはかなり衝撃的な内容です。


 いままで栽培できないとされてきた、薬草を育てる方法なのですから。


 これはお父様に報告して検証しなければなりません。


『あとは……種を蒔く畑は土魔法で耕すとよいとも言っていたな。魔力が浸透して質のよい薬草が採取できると』


「ありがとうございます。ほかに注意点はありますか?」


『そうだな……薬草は根ごと引き抜くのではなく、先端以外の葉をきれいに切って採取するとよいとも言っていたような。そうすれば10日間ほど同じ株から薬草の葉が採取できるらしい。そして、枯れた薬草の株からは種も採取できると聞いた』


 本当に貴重な情報です。


 これは帰ったら早速実験しないと。


「情報ありがとうございました。薬草の栽培がうまくいきましたら何かお礼を……」


『うまくいったのならそれだけでよい。我が主の意思を継いでくれたことになるからな』


「はい。それでは必ず成功させます」


『期待しているぞ』


「スヴェイン様、帰還の準備整いました」


「わかりました。それでは僕たちはこれで失礼いたします」


『そうか。気をつけて帰るといい。夜の森は歩くだけでも危険だからな』


『うむ。転ばぬようにな』


「はい、ありがとうございますっ?」


 帰るために振り返ろうとしたら服を何かに引っ張られました。


 服の先を見てみると子ペガサスがいます。


 どういうことでしょう?


『我が子よ、なにをしている。人の子はもう帰る時間だ』


「ぶるぅ!」


『なに? わがままを言うな。いまのお前には早すぎる』


「ぶるぅ!!」


『いや、しかしだな。この人の子が耐えられるかどうかも……」


 一体なにを話しているのでしょうか?


 子ペガサスの言葉はわからないため、会話の内容がわかりません。


『ほっほっほ。人の子よ。あの子ペガサスはお前と一緒に行きたいそうだ』


「え?」


『わかりやすく言うと、聖獣と契約してともに歩んでほしいということだな』


 聖獣との契約……おとぎ話の中にしか出てこない話ですよ?


「ぶるぅ!!」


『わかった……あの子供が契約に耐えられたら一緒に行くことを許そう』


「ぶるぅ! ぶるぅ!!」


『どうやら話はまとまったな。聖獣契約の方法は知っているか?』


「いいえ。どうすればよいのでしょう?」


『契約したい聖獣の額に手を当てて名前をつけてやるのだ。すると、お前の魔力が聖獣に流れ込むので契約成立するまで耐えられれば成功、耐えられなければ失敗だな』


 魔力量の問題ですか……。


 あまり自信はありませんが試すだけやってみましょう。


 だめだったらあの子も諦めてくれるはずです。


『すまないな、人の子よ。我が子のわがままに付き合わせてしまい……』


「いえ。それで、契約を試して本当に構わないのですか?」


『ああ。契約が成立すれば一回り成長もする。そうなれば自分の身は守れるからな』


「わかりました。やり方はユニコーン様から教えていただきましたので始めたいと思います」


 それにしても名前、名前ですか。


 始める前にどんな名前がいいか聞いてみましょう。


「ペガサスさん。どんな名前がいいですか?」


「ぶるるう!」


『どんな名前でもいいが、空を舞うもののイメージがほしいそうだ』


「ええと、ではエア、ウィンド、フライ、ウィングそのあたりでしょうか」


「ぶるる!」


『最後のが気に入ったと。名前の由来は?』


「確か翼を意味する魔法語です。それでいいですか?」


「ぶるる!」


『それがいいそうだ。では頼む』


「はい。ウィング、僕とともに来てください」


 僕が名前をつけた途端、周囲を明るい光が包み込みました。


 それと同時に、僕の体の中からなにかが急速に抜けていくのを感じます。


 ……これが魔力なんですね、理解できました!


 僕は抜けて行く魔力の量を無理矢理少量に押さえ込むと、一気に流れ出すのではなくゆっくり注ぐイメージで魔力を流し込みます。


『ほう。この人の子、できるな?』


『感覚だけで魔力操作を覚えたか。いや、実に素晴らしい』


 このままゆっくりと魔力を注ぎ続け足がガクガク震え始める頃、ようやく魔力を吸い出す力がなくなっていきました。


 そして光の中からは一回り大きく成長したペガサス……ウィングが姿を現します。


『ありがとう、スヴェイン。僕も成長できたよ』


「ウィング? 話せるようになったのですね」


『うん。よろしくね、スヴェイン』


「ええ、よろしく」


 これで今度こそ帰ることができる、そう思っていたら今度は背中からとがったものでツンツンつつかれます。


 振り返るとそこには子ユニコーンの姿がありました。


『ほっほっほ。どうやら、私の子供も一緒に行きたいようだな』


『人の子……スヴェインだったか。お前は聖獣の子供に好かれるのかも知れないな?』


「えぇ……でも名付けをできるだけの魔力はもう残ってませんよ?」


『そこは私が回復してやろう。ほれ』


 親ユニコーンのおかげで確かに魔力が回復した気がします。


 これなら子ユニコーンとも契約できるかも?


『ちなみに我が子は〝ユニ〟と名付けてほしいそうだ』


「いいのですか? ただ短縮しただけの名前になりますが」


『自分からそれがいいと言っているのだ。問題なかろう』


「わかりました。それでは、ユニ。君も僕とともに行きましょう」


 聖獣契約も二回目になるとなんとなくコツがわかります。


 最初から魔力をあふれさせるのではなく、絞った形ででも多めに流してやることで先ほどより早く契約が完了しました。


『スヴェイン、ありがとう。ウィングに置いていかれるところだったわ』


「どういたしまして。ユニも僕と一緒に来てくれるんですね?」


『ええ、もちろん。これからよろしくね』


『丸く収まったようだな。子供たちをよろしく頼むぞ、スヴェイン』


「はい、こちらこそ貴重な種をいただきありがとうございました」


『気にするな。さて、我々は森に帰るか。ペガサスよ』


『そうだな。頑張るのだぞ、ウィング』


『はい!』


 親ペガサスと親ユニコーンは森の奥へと消えていきました。


 あとは僕たちが帰るだけなのですが……。


『スヴェインを背中に乗せて帰るのは僕だ!』


『私の背中に乗せて帰るに決まっているでしょう!』


 ……ウィングとユニがどちらの背に僕を乗せるかでケンカを始めてしまいました。


 騎士たちも一緒に仲裁して『途中で交代する』ことで納得してもらうことに。


 仲がいいのはわかりましたが、前途多難な気がします……。

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