11.密猟団たちと聖獣たち
「そこだッ!」
「ぐっ!」
密猟団と戦いを始めてから、どれくらいの時間が経ったでしょうか?
本格的な悪意に晒されている戦いは初めてなので、体が震えてしまいます。
時間感覚もあいまいになってしまい、足手まといにならないのが精一杯ですね。
「ぶるぅ……」
「ペガサスさん?」
「ぶるぅ!」
ペガサスの子供はいきなり飛び上がったと思うと、白い炎をまき散らしながら密猟団の後方に降り立ちました。
「ちっ! 飛べるまで回復しちまいやがったのか!」
「だが、いまならまだ捕まえられる! 親が帰ってくるまでにさっさと捕まえて……」
密猟団の男が言葉を発したのはそこまでです。
僕の護衛をしていた騎士団により、背後から斬り倒されましたから。
「くそっ! ペガサスを捕まえようとするとこいつらが邪魔だ!」
「半数はそこの騎士どもをなんとかしろ! 残りでペガサスを捕まえる!」
密猟団は陣形を整え直すと、僕たちに向かってくるメンバーとペガサスの子供を捕まえるメンバーに分かれて行動を始めました。
ですが僕を守る騎士団はその程度の人数ではびくともせず、逆に密猟団に押し込んでいく形になっています。
僕もその中心で足手まといにならないようついていっていました。
ですが……死んだ人間から漂う血のにおいがたまらないですね。
……本来はアリアのために作ってある香油ですが、少し使わせてもらいましょう。
「くっそが! こいつら強いぞ!」
「どうする! このままじゃペガサスを捕まえる前に全滅させられちまう!」
「仕方がねぇ! 一時撤退……」
そのときでした、白い稲妻が密猟団のひとりを焼き払ったのは。
『おのれ、人間どもめ! 私がいない間に懲りもせず我が子を狙いに来たか!!』
声がしたほうを見れば青白い炎を身にまとったペガサスが空からこちらを見下ろしていました。
「くそったれ! 親が帰ってきやがった!」
「逃げるぞ! このままじゃ全員焼き……」
『誰が逃がすか、愚か者どもが!』
周囲一面に白い稲妻が降り注ぎ、密猟団たちをひとりまたひとりと焼き消していきます。
そして、その稲妻は僕たちの方にも向けられて……これはまずいですね!
「ぶるぅ!」
僕たちに落ちそうになった稲妻は、ペガサスの子供によって間一髪そらされました。
その行動に驚いているのは親ペガサスです。
『なにをしている、我が子よ! 人間をかばうか!』
「ぶるぅ! ぶるぅ!」
『落ち着け、ペガサス。少なくともそこにいる人間たちは我らの敵ではなさそうだ』
森の奥から現れたのは立派な一本の角を生やした馬、ユニコーンです。
ユニコーンも子供を連れてきていますね。
「ぶるぅ!」
「ぶひぃん!」
お互いの姿を確認した子供たちは嬉しそうにじゃれ合い始めました。
それを見て、親ペガサスも青白い炎を収めて地上に降りてきます。
『我が子よ、翼の傷はどうした? 人間の毒矢に射貫かれたのではなかったのか?』
「ぶるぅ!」
『……そうか。人の子らよ、大変失礼な真似をした。そして、我が子の治療を行ってもらい感謝する』
「いえ、たいしたことはできませんでした。たまたま持っていたポーションや毒消し薬、傷薬が効いたおかげです」
『聖獣に効く薬をたまたま持っているなどおかしな話だ。だが、嘘をついてはいない。そなたの話を信じよう』
「ありがとうございます、ペガサス様。それで、お子様の容態は大丈夫ですか?」
『ユニコーンの子供とじゃれ合う程度には平気なようだが……ユニコーン、お前の見立ては?』
『傷からの出血で多少弱っているがその程度だ。一応、回復術も施しておいた。なんの問題もない』
『というわけだ、手間をかけさせたな。それで、お前たちはなぜこのような森の奥に来ている? 服装からして森の外にいる人間たちの仲間のようだが』
「ええと、それはですね……」
僕はここに来た経緯を説明します。
それを聞いて驚いた様子を見せたのは親ペガサスと親ユニコーンでした。
『ほほう、お主は聖獣と心を通わせることができるのか』
『笑い事ではないぞユニコーン。しかし、お前の能力に我が子供が助けられたのは事実だ。改めて礼を言う』
「僕がお役に立てたのでしたら幸いです」
「ペガサス殿、ユニコーン殿。ひとつお願いがございます」
『なんだ、人間。申してみよ』
「はい。私たちが斬り倒した密猟団の装備や遺体など、一部で構わないので運び出させてください。密猟団を追う手がかりがつかめるかもしれません」
『そんなことか。我らにも利のある話。許してやれ、ペガサス』
『このようなものたち、我が浄化の雷ですべて焼き払いたいのだが……また来られても厄介か。戦利品として持っていくといい』
「ありがとうございます。お前たち、運び出す準備だ」
「「はっ」」
『さて、ペガサスの子を治してくれた子供には別に褒美をやらねばな。なにかほしいものはあるか?』
「いえ、そんな褒美など必要ありません。困っていた人……ではないですね、聖獣様を助けただけですので」
『……ふむ、本心からそう言っているのだから欲がない。だが、傷薬を使ったということであれば薬草はあっても困らないじゃろう。少し待っておれ、薬草の種を持ってくる』
親ユニコーンは森の奥に走って行ってしまい、僕のそばにはじゃれ合う子供たちと親ペガサスだけが残されました。
ちょっと気まずいです。
『先ほどはすまなかったな、人の子よ。ついかっとなって、我が子の恩人であるお前たちまで手にかけるところだった』
「いえ、そんなことは……」
『重大な問題だ。聖獣ともあろうものが人間の心の良し悪しを見抜けぬとは情けない……』
「あの、こういうことを聞くのは失礼かと存じますが、なぜペガサス様のお子様は怪我を?」
『この森の上を飛んでいたとき、いきなり矢を放たれたのだ。ほとんどの矢ははじけたのだが、我が子の翼に一本だけ刺さってしまった』
「そうだったんですね。先ほどの強さを見る限り、人間に後れを取ることはないと思ったのですが……」
『やつらは用意周到だったのだ。私の力をはじき返す魔導具を用いて身を守り、我が子をさらおうとした。仕方がないので森の奥へと逃げ、傷の治療ができるユニコーンを呼びに行ったのだ』
「なるほど。その間に僕たちがやってきたと」
『それには本当に感謝している。お前たちが来ていなければ我が子は連れ去られていたであろう』
『そうだな。ペガサス、お前はもう少し広い視野を持て』
いつの間にか親ユニコーンが戻ってきていました。
その口には小さい革袋が咥えられています。
『これの中に薬草類の種がぎっしり詰まっている。なんでもマジックバッグという魔導具らしいからな。見た目の数百倍以上は入っているそうだぞ?』
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