15.久しぶりの家族たち
領主邸に戻ると使用人たちの出迎えを受け、各自旅装を解きに自室へと向かいます。
アリアの部屋もすでに用意されており、アリア付きの専属メイドも準備されていました。
ですが、アリアはやはり初対面の相手が苦手らしく、しばらくの間リリスをアリア付きのメイドのサポートをするように命じました。
僕のほうは専属メイドがいなくなってしまいますが、自分のことは自分でできるようにしつけられていますので、さほど問題はありません。
着替えを終えたらアリアが来るのを待ち、一緒にお父様たちが待っているはずの食堂へと向かいます。
「来たか、スヴェイン、アリア。思ったよりも早かったな」
「アリアの着替えが早かったものですから」
「あの、待たせてしまうと申し訳ないと思い……」
「そのようなことは考えなくともよかったのですよ。さあ、席に着きなさい。あなたはスヴェインの隣です」
「は、はい」
アリアはまだ慣れていない使用人たちの視線を感じているようで居心地が悪そうです。
僕はそっとアリアの手を取り彼女の席まで連れていきます。
アリアが席に着いたとき食堂に弟たちがやってきました。
「兄上、戻ったんだな! ……その女の子は?」
「おにーさまー」
「ディーン、シャル。まずは席に着きなさい。彼女のことも含め話さなければならないことがある」
「わかりました。シャル、まずは父上の話を聞くぞ」
「はーい」
ディーンとシャルが席に着いたことで家族全員が揃いました。
そこからお父様の現状説明が始まります。
その内容に一番怒りを覚えたのはディーンでした。
「なんですか、シェヴァリエ子爵は! 父上に対する態度もそうですが、ヴィヴィアン嬢も兄上に対して失礼極まりない!」
「ディーン、抑えろ。もう終わった話だ」
「しかしながら、旦那様。本当にシェヴァリエ子爵家と絶縁してよろしかったのですか? 彼の家との取引は少なくない金額だったはずですが」
「構わぬよ、デビス。あの家は『交霊の儀式』を妨害するという禁忌を犯したのだ。泥船に金を注ぎ込む理由もなかろう」
「わかりました。彼の家との取引はご指示通り中止させてあります。出入りの商人たちにもほのめかしておきましょう」
「商人たちならばすでに知っていると思うがな。さて、次はそこの娘、アリアの話だ」
お父様がアリアの説明をするとディーンは神妙な面持ちになり頭を下げました。
「アリア嬢、申し訳ない。縁が切れたとはいえあなたの父を悪く言ってしまい」
「いえ、気にしていません。お顔をあげてください、ディーン様」
「俺の事はディーンとおよびください。年下ですし、いずれは姉上になられるのですから」
「では私のこともアリアと……」
「それはできません。年上であり兄上の婚約者を呼び捨てでは面目が立ちませんので」
「でも……」
「アリアよ。ここはお前が折れろ。ディーンは頑固だからな」
「わかりました。ディーン、これからよろしくお願いします」
「はい! よろしくお願いいたします!」
「よろしくーアリアおねえちゃん!」
「ええ、シャルちゃんもよろしく」
「アリアの紹介もすんだな。最後にスヴェインの職業についてだが……」
「兄上ですから錬金術師系統の職業だったのでしょう?」
「それなのだがな……スヴェインは『ノービス』だ」
「……『ノービス』? 聞いたことがない職業ですが?」
「それもそうだろう。滅多に現れない職業だ。職業の特徴はどの才能も等しく伸びにくい、逆を返せばどの才能も努力次第で身につく希有な職業である」
「それは兄上に相応しい職業なのでは?」
「お前もそう思うか?」
「はい。努力次第でどの才能も伸びるのでしょう? 錬金術だけでなく剣術や魔法も伸びるのであれば、兄上に相応しいことこの上ありません」
「うむ。だが、この職業の恩恵を受けられるのは『星霊の儀式』までの5年間のみだ。時間は限られている」
「……そうなるとのんびりしていられませんね」
「その通りだ。スヴェイン、覚悟はできているな?」
「もちろんです。まずはなにをすればよいのでしょう?」
「最初は錬金術を鍛えよ。そうだな……聖獣様を助ける際に成功したというポーション作りを半年以内に確実に成功するようになれ。そうすれば次のステップに進めるようになる」
「わかりました。その間も剣術の稽古などは行えるのでしょうか?」
「基本は教えるが基礎となる勉強以外の時間は錬金術の修練にあててよい。それがお前にとって一番の近道となろう」
「はい。……お父様、あとでお時間をいただけますか? 相談したいことがあります」
「わかった。あとで執務室に来なさい。次にアリア、お前はまずこの屋敷に慣れることから始めよ。しばらくはスヴェインと行動を共にし、半年後にはひとりでも屋敷の中を歩けるようにしなさい」
「わ、わかりました」
「スヴェインもアリアも半年後から魔法の学習を始めることにする。……さて、難しい話は以上だ。食事にすることとしよう」
「あの、その前に兄上が乗ってきた聖獣様たちの話を聞きたいのですが……」
「さすがにシャルのおなかが空いてきてるわ。その話は食後にしましょう? かなり長くなるわ」
「わかりました」
そうして食後に聖獣たちの話をしたのですが……シャルが聖獣に乗って空を飛びたいとせがんできて大変でした。
お父様たちとウィングやユニの許可が出たので、明日以降に空の散歩をすることとなりましたが、シャルは今晩寝付けますかね?
そして食事が終わったあと、僕はひとりでお父様の書斎を訪れました。
ユニコーンからもらったマジックバッグと薬草の種、それから薬草の育て方について話をするためです。
一通り話を聞き終えたお父様は……頭を抱えていますね。
「ユニコーン様から聞いた話が本当ならば、革命的な話になるな」
「やはりそうなんですね」
「薬草の安定供給は国の研究課題でもある。まさか、こんな形でそれがわかるとは……」
「それで、このマジックバッグと薬草の種はどうしましょう?」
「ユニコーン様がお前に預けたのだ。お前が管理するように。……しかし、土魔法か。弱ったな」
「なにか困ったことでも?」
「私は知っての通り『剣聖』だ。魔法はからきし苦手。ジュエルは『治癒術師』だが、土魔法のレベルは低いはずだ」
「そうなると、薬草畑を作るのは困難ですか?」
「他家の貴族に頼るのは難しい。使用人も微妙だ。デビスのような信の置けるものが使えるならば良かったが、そうではない。薬草の育成方法は確証が得られるまで可能な限り秘匿したいからな。……そうなると、冒険者に依頼するか」
「冒険者?」
「モンスターの退治や薬草などの採取、護衛などさまざまな活動を手がけるものたちのことだ。だがそうなると、信用のできるものを長期間雇う必要があるな」
「大丈夫ですか、お父様」
「お前の心配することではない。私の方でなんとか手配をしよう。今日はもう下がりなさい」
「わかりました。……そういえば、このマジックバッグは誰でも扱えるのでしょうか?」
「確かに気になるな。スヴェイン、貸してもらえるか?」
「はい。どうぞ」
「どれ……む、中身が入っていないな。どうやらお前にしか扱えないものらしい」
「そうですか……いつの間に個人識別の魔法をかけられたのでしょう?」
「ユニコーン様がかけたのだろう。あまり悩んでも仕方がない、このことは内密にな」
「はい、では失礼いたします」
懸念事項だった薬草栽培についてもお父様に相談できました。
これであとは実際に育ててみるだけです。
さて、どのようになるのでしょうね?
**********
「ふむ、冒険者か……」
懐かしいものだ。
かつては私も身分を隠して冒険者をしていたからな。
「冒険者ギルドのギルドマスターを通じて信用のおける人材を紹介してもらうか……」
高レベルの土魔法使いともなれば高ランク冒険者になるだろう。
そうなれば貴族との付き合い方も心得ているはず。
問題は起こるまい。
「それにしても薬草の安定供給か。それができていれば父上たちも死なずにすんでいたのだろうか……」
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