16.冒険者たちと薬草畑作り

「それで、ギルドマスター。私たちに指名依頼って?」


「おう。正確にはお前たちにってわけじゃないんだが、条件に合うパーティーがお前たちしか今はいないんだよ」


「ふうん。内容は?」


「依頼主は辺境伯様。依頼内容は聞いていない、辺境伯邸で教えてくださるそうだ」


「……あの辺境伯様が秘密の依頼なんて」


「俺もおかしいとは思うが……帰ってきたときは聖獣様たちを連れて帰ってきてるし、なにかあるんだろう」


「そういえばご子息のスヴェイン様の職業も発表されたんだっけ。確か、の……」


「ノービスですよ。私も聞いたことがなかったのですが」


「俺も知らなかった。調べさせたがかなり珍しい職業でどの才能も等しくないらしい」


「……等しくない?」


「一言で言えば才能がないってことらしいが……その割に辺境伯様は平然としている。ありゃノービスって職業も裏があるな」


「ますます怪しい依頼に聞こえてきたんだけど……」


「しかし報酬は破格だぞ。1年間拘束される代わり、ひとりあたり白金貨1枚出してくださるそうだ」


「白金貨!?」


「1年間で金貨100枚分……私たちでも稼ぐのは大変ですね」


「……条件次第だけどおいしい仕事」


「どうだ? 話だけでも聞いてもらえるか?」


「わかったわ。その依頼、【ライトオブマインド】が引き受けましょう」


**********


「お父様、冒険者の方が見つかったのですか?」


 お父様にお願いをしていた土魔法の使い手。


 その方が見つかったそうです。


「うむ。半月かかってしまったが条件に合うパーティが見つかった。今日、詳しい話を聞きに来るそうだ」


「そのとき僕もご一緒してよろしいですか?」


「よかろう。お前の依頼だからな」


「はい」


 冒険者ですか、どんな方々が来るのでしょう。


「旦那様、お約束の冒険者の方々が到着いたしました」


「わかった。では行くか」


「はい。……ん? ウィング?」


「なに?」


 お父様の執務室にある窓の外。


 そこにウィングが飛んでいました。


 なにか急用でしょうか。


「ウィング、どうしましたか?」


『さっき、この屋敷の中に入っていった見慣れない人3人だけど、悪い人じゃないよ。念のため心の色を見てみたから』


「そんなこともできるのですね」


『神眼が使えるようになれば人にもできるんだけどね。それじゃ、伝えたよ、スヴェイン』


「わざわざありがとうございます、ウィング」


 普段のウィングとユニは屋敷の庭で気ままに過ごしています。


 ときどきいまのように来客に対して注意を呼びかけてくれますが、その来客は僕相手のことがほとんどなんですよね。


 どうやって見分けているのでしょう?


「ふむ、これで少し話しやすくなったか?」


「だといいのですが」


 僕とお父様は冒険者の方々が待つ応接間へと移動します。


 応接間に入るとそこには女性が3人待っていました。


「お前たちが【ライトオブマインド】か?」


「はい。私がリーダーのクオです」


「魔術師のチクサと申します」


「治癒師のムノン……です」


「辺境伯家当主アンドレイ = シュミットだ。これは息子のスヴェイン」


「初めまして、スヴェインです」


「さて、早速だが仕事の話をしよう。まず条件だがこの仕事を受けてもらうにあたり、この屋敷に1年間滞在してもらう。屋敷から出るときは監視をつけさせてもらうことになる」


「ずいぶんと厳重ですね」


「それだけの大事だからな。報酬はひとりあたり1年間で白金貨1枚。滞在中の経費はこちら持ちだ」


「至れり尽くせりで怖いですわ」


「やってもらう仕事の内容だが、まず子供たちの指導。それぞれの得意分野で指導を行ってもらいたい」


「……それだけ?」


「もちろんこれは表向きの話だ。これ以上の話は依頼を受けてもらってから説明する」


「やばい話じゃないですよね?」


「もちろん犯罪じゃない。だが、外に漏らされては困る内容だ」


「貴族の秘密と言うことですのね」


「そうなるな。半年以内には結果を出せるはずだが、拘束期間は1年とさせてもらう」


「……どうするの?」


「悪い話ではないと思うけど」


「そうね。受けさせてもらいます」


「決まりだな。では依頼書にサインを」


 お父様が事前に用意していた依頼書に3人がサインをします。


 これで依頼は成立したのですね。


「デビス、この依頼書を冒険者ギルドに届けさせよ。それから人払いを」


「かしこまりました」


 お父様の命令で正真正銘この部屋には5人だけとなります。


 この先はどうすればいいのでしょうか?


「さて、本命の依頼内容だが詳しくはスヴェインから説明させる。スヴェイン、説明を」


「はい。冒険者の皆様、依頼を受けていただきありがとうございます」


「……気にしなくていい。あと、依頼主はそちらだからもっと砕けた話し方で構わない」


「わかりました。お願いしたいことなのですが、薬草畑を作るお手伝いです」


「は……? 薬草畑?」


「はい。薬草畑です」


「あの、失礼ですがスヴェイン様。いままで薬草畑の研究はさまざまな貴族や国々が行って参りました。ですが、成功事例はゼロですのよ?」


「その心配は大丈夫だと思います。育成方法はユニコーン様から聞いてきましたから」


「……聖獣様から」


「はい。ただ、薬草畑を作るのに土魔法を使える人材を探していたのです」


「土魔法。チクサの出番だなあ……」


「畑作りに土魔法ですの?」


「はい。土魔法を使い土地を耕し、豊富な魔力を与えるそうです」


「それは確かに私の出番ですわね……」


「……でも、植える薬草の採取は?」


「薬草の種はもう用意してあります。なのでそちらの心配はいりません」


「薬草って種から育てるのね……」


「そうらしいですね。実験の準備はできています。畑の予定地に案内しますのでついてきてください」


「私もついていくことにしよう。どのような結果になるのか確認する義務があるからな」


「わかりました」


 お父様も一緒に薬草畑の予定地まで移動します。


 予定地ではユニがのんびりと寝そべっていました。


『あら、来たのね。話はまとまった?』


「はい。これから畑を作る予定です」


『わかったわ。……本当なら私が土魔法で耕すこともできたのだけどね」


「そうなのですか?」


『でも聖獣の魔法って基本的に聖属性が混じるのよ。それだと実験にならないでしょう? だから黙っていたの』


「ふむ。ユニ様、我々が作る畑のとなりにユニ様の魔法で作った畑も用意していただけますか?」


『いいけど……聖属性が混じるわよ?』


「実験としては他属性が混じった場合の成育状況を見るのもよろしいかと」


『ふうん。人は面白いことを考えるのね。わかったわ、畑を作ってあげる』


「ありがとう、ユニ」


 こうしてチクサさんとユニに畑を作ってもらいました。


 最初の実験ということであまり広くはありませんが、ちゃんとした畑です。


「……ユニ、ここから先、種を植えるのか蒔くのか聞いてますか?」


『私が知っていると思う?』


「ですよね……とりあえず蒔いてみましょう」


 薬草の種は文字通り山のようにあります。


 失敗しても問題ないのでとりあえず蒔いてみました。


「さて、次はこの水をまいて……と」


 僕はマジックバッグに収納してあった魔力水入りのタルを取り出します。


 入っている間は重さを感じないのですが、入れるときと出すときは重いのでどうやって出し入れするか悩んだものですよ。


 最終的には袋を逆さまにして出し入れすることにしましたが。


「スヴェイン様、そのタルに入っている水を畑にまけばいいのですか?」


「はい。ただ、どの程度まけばいいのかわからないのでそこも調整しながらですが」


「まずは多めに試せばよい。だめだった場合、次から減らしていけばいいのだからな」


「わかりました。私たちで水まきはしましょう」


「そうですわね。さすがに畑を耕すだけで白金貨は腰がひけますわ」


「……私とクオなんて仕事らしい仕事がない」


 冒険者さんたちのおかげで水まきはスムーズに進みます。


 お父様の指示通り水はたっぷり多めにまいてもらいました。


 すると……。


「……芽、出ましたね」


「発芽したな」


「……こんな簡単に薬草ができるの?」


 魔力水をまいただけで種が発芽して小さな葉っぱがつきました。


 こんな簡単でいいのでしょうか?


「今日はここまでですね。明日以降も様子を見ることにしましょう」


「はい。わかりました。……本当に薬草なんですよね?」


「そう聞いています……」


『そのはずだけど。私も自信がないわね。とりあえず私とウィングで、余計な人をこの畑に近寄らせないようにするから』


 こうして1日目の作業は終了しました。


 2日目になると芽はそれなりに大きく成長していましたが、冒険者の皆さんによると収穫にはまだ早いそうです。


 ただ、薬草には間違いないのでとても驚かれていましたね。


 そして、3日目。


「……立派な薬草ですね」


「できちゃいましたね、薬草畑」


「それで、この薬草は採取すればよろしいのですか?」


「ええと、引き抜くのではなく先端以外の葉っぱをナイフで切り取ってください」


「……わかりました」


「そういえば、ポーション作りに必要なのも葉っぱの部分だけだったわね?」


「そう聞いてますわ?」


「……薬草の買い取りも葉の枚数でカウントされてたはず。もうかなり昔だけど」


「そうだっけ? まあ、いまは採取ね」


 クオさんたちと手分けして薬草を採取します。


 あまり多くの種は蒔かなかったはずですが、それでも薬草の葉はかなりの枚数が集まりました。


 ただ、チクサさんの畑の薬草に比べるとユニの畑の薬草はみずみずしい感じがします。


 鑑定結果は変わらないのですが……これは鑑定レベルが不足しているのでしょうね。


「この先はどうするのですか、スヴェイン様?」


「10日間ほどはこのまま水まきと採取をします。10日くらいで薬草が枯れて種が取れるらしいのでまずはそこを目指しましょう」


 ユニコーン様の受け売りですが最初は説明のしようがないのでそう説明します。


 結局、説明通り11日目で薬草がしおれて先端から種がいくつかずつ採取できました。


 薬草の次はマジックポーションの素材である魔草を育てましたが、こちらは種の採取まで15日ですね。


 この分ですと、ほかの薬草も日数が異なるでしょうし研究のしがいがありそうです。

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