538.モノを集める方法
聖獣とともに歩む隠者書籍版第2巻の発売を記念して一日二話更新をしばらくの間行います!
これは二話目です。
明日の一話目はいつも通り朝7時10分。
聖獣とともに歩む隠者2巻好評発売中、よろしくお願いいたします!
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「はあ、それで僕のとこで評議会外会合」
「うむ、済まぬな」
「すみません、頼らないと言っておきながら」
先日の定期ギルド評議会から数日、僕の元へとやってきたのはジェラルドさんと商業ギルドマスターでした。
なんでもモノを集めるにあたってなにかいい知恵はないかとのことで……。
「困りましたね。モノ集めとなると僕でもいい知恵はないんですよ」
「やはりですか」
「はい。先に言ってしまいますが錬金術師ギルドで使っている大量の薬草、これは聖獣農園の一角で育ててもらっています。ほかを自由に使わせる見返りとして。……これだけの錬金術師が稼働していても増え続ける一方なのですが」
「聖獣農園も危険物だな」
「危険物です」
「その聖獣農園とやらで普通の作物を育てていただく事は可能でしょうか?」
「不可能ではないでしょうが……見返りとしてそれ以外に大量の土地と、世には出せない種類の様々な品物も作られますよ?」
「……危険物ですな」
「危険物なんです」
聖獣たちに、特に物作り系の聖獣たちに任せてしまうと好き放題やりますからね。
下手すれば世界樹さえ育て始めるでしょう。
「そういえば、シャルのところには行きましたか?」
「公太女様のところには先日行ってきた。穀物や農作物の栽培についてのお話を伺うためにな」
「シュミットではなんでも魔術士を使い雨量を調整しているのだとか。おかげで凶作になるおそれもほぼないと」
「そのようです。ただし、それも長年の蓄積があってこそできる栽培方法。一朝一夕でできるものではありません」
「同じことを言われてきたよ。だが、良いヒントにはなった」
「ですな。手探りで穀物栽培を始めるよりはまだよろしいでしょう」
「コンソールでは聖獣の泉が近くにあるため水質汚染は滅多なことでは起こりません。起こりませんが、そちらに甘えすぎてもいい結果は出ないでしょう」
「うむ。それも承知……というよりも公太女様より念を押されてきた」
「いやはや、耕作地帯を作るとは難しいですな」
難しいでしょうね。
本来なら長年かけて開拓しなければいけない問題を一気に解決しようというのですから。
「開拓農家の募集もかけている。かけてはいるが……やはりほとんど集まらないな」
「コンソールに来ているのは街暮らしの者がほとんどです。農地の開拓をして畑を管理するというノウハウを持っていないのに始めろというのが無理と言うものでしょう」
「第一街壁の内の者でさえ持っていない技術だ。始めろというのが難しい。さすがのシュミットでもそこの知識は農家頼みらしいからな」
「農業は土質の問題も出てきます。ただ耕すだけではなく、土壌改良や適切な肥料、作付けの時期などそういった知識を持ち合わせていないと無理があるというものでしょう」
「まったくでございます。そうなるとシュベルトマン侯爵にお願いして近隣の村から開拓民を募集することですが……」
「それ、各街壁ごとの生活レベルに差が生まれませんか?」
「そこが難問だ。民が集まるかもわからぬ。それ以上に生活レベルに差が出ることが問題だ。シュミットではうまく調整していると言うことだが具体的な施策までは教えてもらえなんだ」
「でしょうね。友好国といえどそこまで手札は開示しないでしょう」
「はい、私どもも承知の上です。そうなると農業を営む皆様に補助金を出すことになりますが……それだけでついてきてくれますでしょうか?」
「難しい問題だな。今まで作ってきた畑を捨てて新しい畑を開墾するように命じるのだ。そう易々とはいくまい。ましてや、街壁内部には活気のある街がすぐそこにある。そちらを望む者たちも多かろう」
「僕もその考えです。コンソールはあまりにも発展しすぎている。開墾を行うにはその苦労に見合うだけの対価を与えねばなりません。それも率先して代々伝えていただけるような施策を」
「……なるほど。親の世代が耕作を行ってくれても子供の世代が行ってくれるとは限らないか」
「むしろ、その可能性の方がはるかに高いでしょう。子供たちは絶対に街壁内部に興味を示す。そして生活レベルの差に気が付き内部を目指すでしょう。各ギルドの仕事も大変です。ですが、農業は更に輪をかけて大変なのですよ。毎日が勝負ですからね」
「補助金を出せば良いという問題ではないか」
「多少お金があったとしてもそれを有効活用するような状況は生まれないと考えています。それに、僕が広げた第二街壁から第三街壁の穀倉地帯。これも百年先を見通した広さで作っていますからね。数年では有効活用できないでしょうし、やってはいけません」
「……広さがあるからと言って急げばいいという問題でもないか」
「そうなります。食料や服飾の素材集めが必要なのはわかりますが、満足に手に入るようになるのは十年二十年先を見通して計画を立てなければなりません」
「なるほど。それで魔綿花畑か」
「魔綿花畑は魔法布の取り扱いを覚え始めてもいい頃合いだと感じたのもありますが、糸作りにはいい教材です。その先に進めないのが難題ですけど」
「布や糸なども調達しております。やはり、街で消費する分も考えると人材育成に回せる分は少ないでしょうな」
「ユイはサリナさんひとりしか育てていなかったので問題ありませんでした。ですが、百人単位となるとそれも難しい。古着の仕立て直しだってそこまでの量はないんでしょう?」
「それはギルド案件だが、その人数を育てるほどの数量は足りないだろう。何せ、今の本部体制だけでもコンソールが機能していたのだ。どう考えてもそこまでの数量はない」
やはり人を育てるためのモノが致命的に足りていませんね。
僕が手助けできるのは魔法素材ばかり、見習い職人の手には余りますし今いる職人たちに渡されても機能不全を起こすでしょう。
ままなりません。
「そういえば冬になったが薬草栽培の本格化はしないのかね?」
「残念ながら無理です。ノウハウの蓄積はそれなりにたまりマニュアル化も進みました。下級薬草を育てるだけでしたら問題ありません。問題なのは人手です。支部の錬金術師を統括しているウエルナさんに言わせると、まだまだまともに薬草栽培できる人材が揃っていないと」
「中級薬草はいかがなのです?」
「本部の第二位錬金術師にしかできません。試験栽培場で作り始めていただいていますが、なかなかいい結果が出ないと報告が。おそらく地中に込められている魔力の量が足りていないのでしょう」
「それを本人たちに伝えているのかね?」
「伝えています。ただ、なかなかうまくいかない様子ですね。魔法訓練場も用意して普通の魔法訓練もさせるべきかも知れません」
「モノを集めるのはここまで難しいとは」
「だがモノがなければ人材育成もままならぬ。早急に手を打たねばならない。ならないが……出口が見えない」
「僕でも普通の素材は作れませんし作ってません。作ろうとすると野山に行って素材をかき集める必要があります」
「難しいな」
「難しいですな」
「難しいんですよ」
特殊素材はいくらでもご用意出来ますがそうなると最上位層が扱えるかどうかの代物ばかり。
どうにもならないんですよね。
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