689.英才教育機関についての説明

 さて、今日は定期ギルド評議会です。


 定期進行の議題は問題なく終了。


 あえて言うなら農業ギルドで行ってもらっている試験耕作地の生育状況が僕の畑と魔術師ギルドの畑でかなり違いが出ていると言うことでしょうか。


 魔術師ギルドの皆さん、頑張ってください。


 さて、あとは僕たちからの議題、英才教育機関の話ですね。


「ふむ。それでは錬金術師ギルドは英才教育機関を遂に動かすか」


「はい、動かせる状態まで準備ができました。想定通りの問題が出てきましたが」


「想定通り……親側の問題でございますな」


「まあ、仕方ねえっちゃ仕方がねえがよう……」


「それはどうにかなるのでしょうかな、錬金術師ギルドマスター?」


「難しいです。稼働前の時点で錬金術師ギルドの受付まで英才教育機関の申し込みをしにきた親が若干名、英才教育機関についての説明書きを貼り出したあと英才教育機関出身者の特別入門枠がないことに文句を言いに来た親が若干名いました」


「やはりそうなりましたか」


「特別採用枠は設けられないのか、錬金術師ギルドマスター?」


「無理です。設けることができても二十名以下。英才教育機関出身だからと言って入門後は特別扱いをしません。そこを理解してもらえるかどうかの自信が今のところありませんから」


「錬金術師ギルドの新規入門者定員は二百名だったな。英才教育機関出身者の特別枠をあまり設けてはそれはそれで文句も出る。それに、妙なエリート意識が高まるか」


「そうなります。シュミットでは英才教育は十歳まで。そのあとギルド入門ができる十三歳までの間は各自自習か、各種店舗に見習いとして受け入れてもらい腕を磨くことになっているようです」


「難しいな。スヴェイン、なんとかできるのか?」


「なんとかしたいですが、どうでしょうね? こればっかりは試してみないとどうにも」


「だが、これはどこのギルドでも起きうる問題です。この場で話し合う価値はあります」


「そうだな。どのギルドでも進捗の差こそあれ英才教育機関の準備は進んでいるわけだ」


「はい。また錬金術師ギルドに先を越されましたが」


 またって言わないでください。


 積極的に力を貸してくれているセティ師匠が悪いんですから。


 僕だってここまでスムーズに事が運ぶなんて考えていませんでしたよ。


「しかしマジな話どうするよ? これはどこのギルドでも起こる問題だぜ? 無制限に人を受け入れられるギルドなんてあるわけじゃないんだからよ」


「今のところ人手不足が深刻な建築と馬車はまだいい。家政も人手不足状態だ。問題はモノの問題で人を鍛えられない各ギルドだな」


「そうなります。私たち服飾ギルドでも英才教育機関の準備として講師の準備は進めておりますが……指導用の教材が」


「鍛冶と宝飾はいざとなればなんとかなります。ただ、それは裏に何かあるとばらすようなものですからね」


「調理と製菓なんて無理があるよ。新市街の人口が減ってきたことで多少の余裕ができちゃ来たが英才教育機関を建てるなら新人ギルド員を育成する方に素材を回すね」


「ほかのギルドは……講師か場所の問題があるだろう。モノの問題がなく講師の準備が整った錬金術師ギルドに先を越されるのは仕方があるまい。仕方がないのだが……やはり、親世代の意識が問題であるか」


「親の気持ちはわかります。ただ、それに子供たちが付いてこられるかどうかが非常に疑問ですね。多少ならどうにかしますが、尋常ではありません」


「子供向け講習会は子供たちの自発的参加だからな。そっちはいいんだろうが、英才教育機関は親が積極的に通わせようとする。そこが問題だな」


「そうでございます。講習会だけで足りない手を補うのが英才教育機関の目的。ですがこれでは本末転倒ですぞ」


「さて、どうするべきか……」


 さすがのギルドマスターたちもこれには頭を悩ませてしまうみたいです。


 そもそもあくまでであってのですから。


「スヴェイン。どの程度の頻度で開催するんだ?」


「週三日です。内容は今のところ講師になる三人に任せていますね」


「そうか。問題が出そうなことは?」


「申し込みがあふれかえることでしょうか。先着順にするつもりはもちろんありません。一定基準の元に順番を決めて抽選ですね」


「錬金術師ギルドマスター、一定基準とは?」


「子供が自分から申し込みに来た場合を優先します。それで埋まってしまえばその中から抽選、埋まらなければ親が申し込みに来た者を入れます」


「ふむ。まあ、いいんじゃねえか?」


「あくまで子供優先ですからね」


「それで教育期間は一年か?」


「その予定らしいです。ただ、毎週とか毎日とかの予定ではなく、二週に一回のペースで同じ受講者を呼ぶ予定なので実質同じ年代は三百人ずつを教えるようですね」


「ふむ。十分な育成期間にはなるのか」


「なります。最初の間は魔力操作の指導から入るみたいですし、一年を通してポーションまでたどり着くカリキュラムでしょう」


「『ウサギのお姉ちゃん』みたいな一足飛びにポーションまでは教えないってわけか」


「あれは錬金台にいろいろと細工をしてありますからね。本来必要な【魔力操作】スキルがなくてもイメージだけで十分できるとか」


「なるほど。ともかく、実際のところは英才教育機関が動き出してみないことにはわからぬか」


「申し訳ありませんがそうなります。稼働状況は情報共有としてある程度報告いたしますがどうなるかは動き出してからですね」


「わかった。可能な範囲で情報共有をお願いする。今後の参考にしたい」


「承知しました。僕からの内容は以上です」


「ほかに質問や提案のある者はいるか?」


 医療ギルドマスターの確認に誰も反応せず、今日のギルド評議会はこれにて終了。


 明後日からは遂に英才教育機関の受講者申し込みですし、気が抜けません。

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